研究課題/領域番号 |
17K05614
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
粟津 暁紀 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00448234)
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研究分担者 |
上野 勝 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (90293597)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分裂酵母染色体 / クロマチン構造 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
核内染色体動態における核膜の変形及び核質の流体力学的効果の影響について考察した。具体的には、まず減数分裂期の分裂酵母で見られる、細胞核が大きく伸張・変形しながら細胞の両端間を往復する「ホーステイル運動」が核内の染色体に及ぼす影響、特に減数分裂に置いて最も重要な核内イベントである相同染色体同士の「対合形成」に及ぼす影響を、世界で初めて核膜と核内核質の物理的状況を踏まえたモデルを構成し、シミュレーションを行った。その結果、相同染色体同士の対合が、非相同染色体間の長さの違いによる相分離の結果生じる事、その非相同染色体間の相分離が、核のホーステイル運動の際の、細胞両端におけるターン(急な進行方向転換)に対する、染色体毎の追従性の違いによって生じる事が見出された(Takao, et al., JPSJ 2019)。 また様々な細胞において、核内染色体の長距離的な構造制御を担うゲノム領域として知られるインスレーター配列に関する新たな知見を得た。具体的には、従来広く認識されているクロマチンループ形成タンパクの結合する配列とは全く異なり、そのようなタンパク質の結合のしない、ヌクレオソーム排他的で物理的に「硬い(変形し難い)」と考えられる配列が、そのままインスレーター機能を持ちうる事を見出した。従来までにこのような機序で働くインスレーターの存在が、出芽酵母やウニ等で見出されていたが、今回の解析からヒトゲノム中にも 5000 箇所以上、このような機序で働くインスレーター配列が存在する可能性が示唆された(Matsushima, et al., JCPB 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、核膜の変形や核内の核質を介した流体力学的相互作用、及び転写制御のためのクロマチン構造因子及び転写活性状態の変化に起因する、核内の長距離相互作用が染色体構造・動態におよぼす影響を明らかにする事である。そしてこれまでに昨年度のものに加え、上記「研究実績の概要」でも述べたような成果に関し、論文発表を行っている。 更に現在、分裂酵母の「間期」の染色体動態に関するも考察も、上記分裂酵母染色体のモデル化手法と同様の方法で進めており、これまでに核内の核質を介した流体力学相互作用が、共焦点蛍光顕微鏡による3次元ライブイメージングで観測されている、核の振動を牽引する Spindle pole body(SPB)の運動と核内染色体の運動の長距離相関、及び長時間的な各遺伝子座の拡散速度の、SPB からの距離依存性を実現する事を見出している。さらに各染色体局所部分のエビゲノム状態のデータの整理も、これまでにほぼ完了している。 さらにウニ初期胚を用いた、多細胞生物の発生・分化に伴う核内の長距離的な構造・動態の考察については、これまでにHistone locus body、核小体、セントロメア、テロメア、構成的へテロクロマチン、条件的へテロクロマチン、RNA ポリメラーゼの同時染色を可能とするプローブを作成し、それらの核内配置やその細胞周期・発生ステージ依存的な変動のデータを収集できており、核内の大域的構造の描像化の準備ができている。 このように当初の予定通り、長距離的な核内染色体構造・動態の描像構築に向けた研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
真核生物の染色体動態とその転写動態への関与への理解に向けた一つ目の試みとして進めてている、最もシンプルなモデル染色体システムを保持する分裂酵母の解析を更に進め、その核内イベントの描像を確立する。そのためこれまでにライブイメージング及び数理モデルで明らかにしてきた分裂酵母核内染色体の運動性と、昨年度までに収集した様々な先行研究で得られている各染色体局所部分のエビゲノム状態データやHi-Cによる平均構造データとの関係を考察し、これまで進めてきた物理的な長距離相互作用のみならず、転写活性・抑制状態といった時間変化する局所クロマチン状態に起因する長距離秩序変化を、実効相互作用として取り入れたモデルも考慮し、細胞周期に沿った核内プロセスの描像化を試みる。 またウニ初期胚を用いた、多細胞生物の発生・分化に伴う核内の長距離的な構造・動態の考察については、これまでに得られたイメージングデータに基づいて、各種核内構造体間のネットワークとしての核内構造の描像化を試みる。特に受精後6時間頃に起こる、その後も分裂を継続する体細胞系と、分裂を停止し構成的ヘテロクロマチン形成や様々な遺伝子の転写を開始する、生殖細胞系の前駆細胞である小小割球のへの分化が起きた後の数時間の発生ステージにおける、各細胞の核内構造に着目する。これまでにHistone locus bodyやセントロメアの核内配置が、細胞周期に依存して変動する事が観察されており、またそれらの配置は、核内で最大の構造物である核小体の配置に影響を受けると自然に予想されるため、これらの構造を要素とし、要素同士がクロマチン繊維を介して相互作用するとした物理モデルから、細胞周期・細胞分化に伴う転写活性変動と核内構造の関係の描像化を試みる。
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