本研究は、長鎖DNAの高次構造転移が遺伝子発現活性にどのように寄与するのかについて明らかにすることを目的としている。最終年度は、炭素鎖長の異なる二価ポリアミンを用い、炭素鎖長の違いによる遺伝子発現活性への影響を調査した。生体細胞内において、ポリアミンは遺伝子発現活性や細胞の成長・増殖といった生物学的機能を制御する役割を担っており持つことが知られているが、遺伝子活性に対する寄与については、研究が進められいない。本研究では炭素鎖長の異なる二価ポリアミンを用いた、in vitroでの遺伝子発現実験を行った。さらに、蛍光顕微鏡を用いたDNA一分子観察および原子間力顕微鏡を用いたDNA微細構造観察を行い、DNAの微視的な構造についての議論も進めた。また、モンテカルロ法に基づくシミュレーション解析を実施し、ポリアミンとDNAの相互作用に関して理論的にアプローチした。実験およびシミュレーション結果から、ポリアミンは炭素鎖長の違いにより遺伝子発現活性効率が異なり、特に、アルキル鎖の炭素数を6つ持つポリアミンは、遺伝子発現活性効率を顕著に抑制し、環状DNAのペアリング構造を引き起こすことを明らかにした。さらに、DNAペアリング構造はDNA鎖2本が重なった構造であるため、転写因子のDNA読み取りの妨げとなり、遺伝子発現効率を抑制することも明らかにした。研究期間全体を通して、長鎖DNAが凝縮状態になる直前のDNAセグメント同士の平行配列が多い構造が最も遺伝子発現が活性化し、さらに凝縮度が進んで硬く折り畳まれた状態では、遺伝子活性が完全に抑制されることも見出した。本研究で得られた結果から、長鎖DNAの高次構造転移が遺伝子発現活性に直接的に寄与し、遺伝子活性のON/OFFスイッチング機能として働くことを明らかにした。
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