研究実績の概要 |
マランゴニ対流は,表面張力が場所によって異なる場合に自発的に生じる対流のことである。例えば,樟脳船は,船首と船尾の界面活性物質(樟脳)の濃度差によって生じた表面張力勾配が推進力となり進む。生体膜を構成するリン脂質もまた界面活性物質である。一般に界面で自己組織化膜が形成されるとき,しばしばマランゴニ対流を伴う。本研究では,マランゴニ対流によって,界面に生成消滅する自己組織化膜の形成過程を,表面張力および時分割X線反射率測定によって観測する。界面の電子密度分布の時間変化から,両親媒性分子の自己組織化機構を分子レベルで理解することを目指す。 【令和元年度】表面張力測定:これまでの研究から表面張力の自発振動の発生には、マランゴニ対流の発生源である可溶性界面活性剤と発生したマランゴニ対流を吸収する不溶性界面活性剤の2つの界面活性剤が必要であることがわかった。そこで本年度は、発生条件の探索として、可溶性界面活性剤の種類(ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール)と不溶性界面活性剤であるリン脂質の種類(DSPC, DMPC, DPPC, DOPC, コレステロール)や表面圧を変えて測定を行った。その結果、リン脂質の形成する水面上単分子膜の膜弾性率が振動の発生に大きく寄与していることがわかった。 自己組織化膜形成過程の時分割DXR測定と構造解析:高エネルギー加速器研究機構(KEK)のPF-ARビームラインにて測定を行ったところ、表面張力が最小値をとる時には、リン脂質が水面に垂直方向に秩序立って配向していることがわかった。これらの結果は論文にまとめて投稿中である。
|