研究課題/領域番号 |
17K05617
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
高橋 功 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10212010)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ガラス転移 / 高分子薄膜 / X線回折・散乱 / 相転移 / エンタルピー緩和 |
研究実績の概要 |
当該年度におけるガラス転移と相転移の関連性についての研究として、(I) ポリスチレン(PS)薄膜とポリメタクリル酸メチル(PMMA)薄膜表面のシンクロトロン放射光と原子間力顕微鏡を用いた、表面モフォロジーの温度変化の観察を行った。また、薄膜の緩和についての研究としてX線反射率の精密測定を通しての、(II) PS薄膜の緩和の温度依存性、(III) ポリメタクリル酸メチル薄膜の膜厚緩和の分子量-膜厚依存性の観察を行った。 (I)ではPS、PMMAの双方で、薄膜のガラス転移温度よりも50℃以上も低い温度でX線散漫散乱の強度および散漫散乱の逆空間内での分布の広がりから推定される構造ゆらぎの相関長の増大を見出した。同様な振る舞いは原子間力顕微鏡の位相モードを用いた表面モフォロジーのパワースペクトルでも確認することが出来ている。ガラス転移温度近傍の試料最表面の構造ゆらぎと弾性率などの力学的性質の急激な変化を反映しているものと考えられる。 (II)では室温~70℃までの温度範囲での測定を行った。今後さらに高温での測定を継続するが、これまでに得られた結果をアーレニウス則を用いて解析したところ、膜厚緩和に要する活性化エネルギーがガラス転移温度直下におけるバルク試料の活性化エネルギーに近いことが明らかになった。この事実はPS薄膜の膜厚緩和が最表面領域で生じていることを示唆している。 (III)では強酸で親水処理したガラス基板上にPMMA薄膜を形成して測定を行った。基板と高分子との水素結合をさらに強固なものとした際の膜厚緩和の変化を明らかにすることが目的であったが、そのような基板を用いた場合でも、緩和に与える界面領域の影響は限定的であり、膜厚が試料の慣性半径を超えるとバルク試料に固有の負の体積膨張が現れることが今回明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に記した様に「相転移との関係」「緩和」の双方でこれまで報告例の無い新たなデータを得ることが出来、複数の国内の学会で報告を行った。その意味で、本研究は概ね順調に進展していると判断されるものの、データの再現性に関してはこれを十分に確認できる段階ではない。当該年度に得られた知見を今後論文として報告し記録に残していくためには条件を変えながら再実験を繰り返していく必要がある。また、今回の科研費で購入・整備した原子間力顕微鏡についても、測定条件・パラメーターの更なる最適化が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度に得られたデーターの再現性の検証を行う。膜厚や分子量、熱履歴等の条件を変えながらの再実験の繰り返しが必要であるが、PS、PMMA以外のガラス形成高分子についても同様の測定を行い、得られた成果がPSやPMMAに固有の現象であるのか、それともより一般性を有する現象であるのかを確かめることは重要である。なおPS、PMMA以外の高分子の候補として、ポリ(4-. ビニルフェノール)(PVPh)を予定している。 原子間力顕微鏡による実空間測定と、X線回折による逆空間での測定結果の双方を付き合わせて議論することは、本研究に対する客観的な信頼性を担保する為に必要である。研究代表者はX線表面散乱・回折を専門とするが、原子間力顕微鏡については素人の域を出ない状況にある。ゆえに原子間力顕微鏡を用いた摩擦力測定におけるパラメーターの最適化を進め、放射光X線の成果と比較し得うるデータの集積に務める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
X線管球の購入を予定していたが、偶々耐用時間を過ぎても使用できていたため、購入を取りやめた。次年度(H30年度)に購入する予定である。
|