研究課題/領域番号 |
17K05620
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森下 徹也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10392672)
|
研究分担者 |
米澤 康滋 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (40248753)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 自由エネルギー計算 / レアイベント / 位相空間 / 生体分子 / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
31年度は、一般的かつ普遍的な量といえるポテンシャルエネルギーをCVとして採用した加速ダイナミクス手法を考案し、protein-Gの粗視化モデルや不純物を含むアモルファスシリコンの系に適用してその有効性を確認した。 一般的に、レア・イベントの多くはエネルギー障壁を越えるために多くの待ち時間を必要とする。そのため、エネルギーランドスケープを修正して障壁を低くすることができれば、限られた時間内でも“レア”なイベントを頻繁に実現することができる。今回提案した我々の手法では、従来のポテンシャルエネルギーにバイアスポテンシャルを加えることで、障壁を効率的に低くすることができる。また、一定のエネルギー値以下の領域だけにバイアスを付加することで、人工的にイベントを加速してもその現象の時間スケールを正しく評価できることを示した。この手法はハミルトニアンのポアンカレ変換を基に考案されたため、ポアンカレ加速ダイナミクスと呼ぶ。 粗視化モデルのprotein-Gに対してこの手法を適用し、末端間の残基同士のポテンシャル相互作用エネルギーにバイアスポテンシャルを付加することで、分子形状が広がったコンフォメーションを高頻度にサンプルすることに成功した。さらに、コンパクトな状態から広がった状態への遷移レートも、この人工的なポテンシャルエネルギーを付加しても正しく評価することができた。 不純物を含むアモルファスシリコンに対してもポアンカレ加速ダイナミクスを適用し、本来ならば非常に時間のかかる不純物拡散をMD計算の実行できる時間内で実現し、さらに正しい拡散係数を求めることにも成功した。 これらの成果により、エネルギー障壁の存在により“レア・イベント”となっている現象も、ポアンカレ加速ダイナミクスにより“通常のイベント”のように再現でき、さらにその時間スケールも正しく評価できることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本事業が開始してから、平均力ダイナミクスの拡張としてLogPD法を考案し、さらに系の詳細に依らずに普遍的に利用できるCV探索の一環として、SOMによる機械学習やエネルギーのCV化などを実施してきた。さらに平均力ダイナミクスの代表的手法であるTAMDやLogMFDを実行できるプログラムコード開発も行い、公開されているプログラムパッケージへの移植作業も進んでいる。このように、過去3年を通じてほぼ計画通りに成果が得られており、本事業は順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
系の動的な変化を適切に記述できるCVの、一般的な構築法の開発を継続する。31年度では、最も一般的な変数と考えられるポテンシャルエネルギーを一種のCVとして扱い、高いエネルギー状態を頻繁に実現できるようなバイアスポテンシャル関数を導入することで、限られた時間内に数多くのコンフォメーション変化を実現する手法を導入し、その有効性を確認した。また、機械学習の一種である主成分解析に関する予備的な計算も実施した。そこで本年度は、主成分解析をベースに一般化CVを構築するスキーム開発を推進する。 30年度の研究成果から、非線形な変数変換によるCVの構築は、必ずしも効率的とは限らないことがわかっている。主成分解析は線形変換であるため、CVの構築は比較的容易で一般的であり、物理的な理解もしやすい。一方で、原子座標を変換することで主成分を構築する場合には、構造重なりを考慮する必要があるなどの問題点も存在する。そこで、従来あまり対象としてこなかった変数を変換対象とする新たな主成分解析スキームを構築する。 具体的には、各原子(あるいは残基の重心や主鎖炭素)の位置座標だけではなく、ボンド角や二面角、あるいは特定の原子間距離なども主成分解析の対象変数とする。さらには配位数や分割したエネルギーなども対象にする。このような様々な量を対象とすると、構造揺らぎに協同的な寄与をする変数とそうでない変数が、主成分解析により自動的に分類されることが期待される。これに関する準備的な計算がprotein-Gの粗視化モデルに対して昨年度から始まっており、今年度は本格的にこの計算を実施していく。最終的には、このような協同的変数の動きを加速することで、コンフォメーション変化を加速するアルゴリズムの開発を目指す。これが成功すると、本事業の最終目標がほぼ達成できたことになる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者及び分担者がそれぞれ参加予定の学会参加を、学内業務や体調の問題で取りやめたことで、繰越金が発生した。令和2年度は、学会参加以外に計算機利用の増大が見込まれるため、一部の繰り越し予算は計算機使用料に計上する予定である。
|