研究課題/領域番号 |
17K05622
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高田 陽一郎 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (80466458)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | InSAR / 台湾 / GNSS / 水準測量 / テクトニクス |
研究実績の概要 |
初年度には台湾南西部、2年目には台湾東部においてもInSARを用いて顕著な非地震性地殻変動を検出したため、今年度はより広い領域をカバーするScanSARモードを用いたInSAR解析に力を入れた。台湾のInSAR画像は総じて電離層擾乱の影響を強く受ける傾向にあり,時としてGNSS速度場で補正しても除去しきれない事例があった。そこで、Split Spectrum Method (SSM) (Gomba et al., 2016; Furuya et al., 2017)を用いて原理的に電離層擾乱の影響を除去することを試みた。SSMを用いるとチャープバンド幅が減少するために空間分解能も低下する。通常のstrip-mapモードで撮像した場合は大した問題にはならないが,ScanSARモードではもともと空間解像度が低めであるため,SSMを適用することでS/N比が悪化し,位相アンラッピングエラーが多数見られた。そこでまず,位相アンラップの前に適用するアダプティブフィルターを強めに設定し,さらにより多くのピクセルを用いてマルチルックを行った。本研究課題のターゲットである非地震性の地殻変動は波長が長いために,多少強めに平滑化しても問題はない。最後にMinimum Cost Flow (MCF)法(Costantini, 1998)を用いて位相アンラッピングを行う際の三角網の組み方を変更することで,ScanSARモードであっても安定的に位相アンラップが出来るようになった。台湾南西部については陸上に加えて海底の地殻変動も褶曲運動の数値シミュレーションに基づいて説明することに成功した。その詳細について国内外の学会で発表を行い、陸上の場合とともに論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度まででInSAR解析に含まれる長波長の誤差をGNSS速度データを用いて補正することには成功し,本年度は水準測量データを用いた補正に取り組む予定であった。しかしこれまで多く用いて来たstrip-mapモードを用いて撮像した画像では台湾中央部において一つのシーンに含まれるGNSS観測点が多くないこと、またALOS-2の海外における運用計画がScanSARモードに一層重きを置くようになったことを考慮し、ScanSARモードで撮像された広域的だがやや空間分解能の低いデータの取り扱いのノウハウを構築するよう方針を変更した。位相アンラッピングの失敗が問題であったが、これを無事クリアした。以上のポイントについて、当初研究計画よりも若干遅れていると考える。一方で数値シミュレーションについては想定以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はALOS-2を用いた干渉画像(strip-mapモードとScanSARモードの両方)にsplit spectrum 法(SSM)を適用した上で、初年度に成功したGNSSデータを用いた補正に加えて水準測量データを用いた干渉画像の補正を推進する.GNSSデータは水平方向の精度が高いが,上下方向の変位に対しては精度が低い.一方で水準測量データは上下成分しか示さないが,その精度はGNSSデータよりも高い.そこで,これらを組み合わせてより精度の高い衛星視線方向変位量を作り,それによってInSAR画像の誤差を推定し,その誤差を干渉画像全体から差し引く予定である. 衛星視線方向ベクトルの作成方法にあたっては,計画調書に記載したとおり複数の手法の比較を行い,それぞれの長所と短所を明確にする.その上で補正済みのInSAR画像を用いて時系列解析を行い,非地震性の地殻変動を検出する.また,SSM法を用いた補正により空間分解能が低下することを防ぐために,抽出した非分散性の位相変化をそのまま用いるのではなく,分散性の位相変化をスプライン関数を用いたモデルで表現する.このモデルを用いてもとのチャープバンド幅の画像と同じピクセル数の画像を作成し,もとの画像から差し引くことで空間解像度を高く保ったまま電離層擾乱の影響を除去する.本研究課題の成果を国内外の学会で(オンライン開催かもしれないが)広く発表し,また現在執筆中の論文を可能な限り速やかに投稿する.結果の発表と追加解析に必要な計算機を購入する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
電離層擾乱に伴う長波長ノイズを干渉画像から除去するためにSSM法を適用したが、ScanSAR画像についてはもともと解像度がやや低めであるために、空間解像度が一層低下し、位相アンラッピングエラーが発生した。この問題を解決するまでは大規模な解析に移るのを控えたために、計上した計算機の年度内の購入を見送った。本年は予定通り計算機を購入するとともに、論文投稿を積極的にすすめるために予算を使用する。なお、別の科研費と合算購入した計算機でも部分的に計算を行っているが、次年度の解析には耐えないと思われる。
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