2019年度は電磁シミュレーションの計算結果を基にしてテストフィールドとして蔵王山において伝送試験を行う予定であったが、今年度も別エフォートが想定外に大きかったことと計算コード開発が最後まで完成出来なかった為、シミュレーションと伝送試験の両者とも実行できなかった。 シミュレーションコードを完成出来なかったので、地下を一様分布と仮定して地表面に置いた電流ループを遮断した場合の任意の場所で観測される過渡応答の起電力と磁場の解析解に関する広範な文献調査を行い、任意の観測パラメータに対する解析解を計算可能なプログラムを作成した。解析解を文献調査した過程で時間領域電磁法の理論式として電場のベクトルポテンシャルを用いるものと(Kaufmanに代表される旧ソ連派)、ヘルツベクトルポテンシャルを用いる定式化(Waitに代表される米国派)の2つが存在し、最終的な両者の解析解がファクターで異なっていることを発見した。式変形を比較するとWaitの手法がよい近似であるが、広く用いられているのはKaufmanの定式化である。今回Kaufmanの式で計算したところ、100 Ωm一様の場合、100 m四方の地表のループに10 Aの電流を流し、それを遮断した場合の1 km離れた場所で観測される過渡応答の起電力は1 ms後で0.987 mV、10 ms後で0.987 μV、0.1 s後で0.987 nV、10 Ωm一様の場合、1 ms後で98.7 mV、10 ms後で98.7 μV、0.1 s後で98.7 nVの起電力が期待され、十分に既存の計測器で計測が期待される起電力であった。 計画時に全く想定できない事態で目標達成できなかったことを猛省し、伝送試験に計上していた期間全体の直接研究基金の66%に当たる研究費を学術振興会に返還した。
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