研究課題
月のマグマオーシャンの固化とその後に起こったマントルの再溶融に至る,月初期の熱進化については未だに解明されていない.本研究は近年発見された,太古の時代のマグマ貫入の痕跡と考えられる線状の重力異常(LGA)に着目し,貫入岩路頭の探索とマグマ組成の調査から,月の冥王代とも言える時代の火成活動の復元を目指すものである.平成29年度は,まずはLGAがマグマ貫入によって作られたことを検証するために,月周回衛星「かぐや」のマルチバンド画像データを用いてLGA周辺の地形・地質調査を実施した.その結果,LGA上に形成された大クレータの放出物上にマグマ起源と考えられる高鉄量物質が散在していることを発見した.この結果は,LGAの周辺の地下において,高鉄量物質が存在していたことを示しており,LGAがマグマ貫入起源であることを強く支持する初めての物質化学的証拠である可能性がある.来年度以降,より詳細に連続スペクトルデータを用いて検証を実施する予定である.また,これまで高い精度で調査されていなかった月裏側の海に関して,「かぐや」マルチバンドデータを用いて溶岩流の総体積を決定した.その結果,月の表側と裏側でマグマ生成量が20倍程度異なっていたことを発見した.一方で,LGAの分布は表側と裏側で明瞭な空間的不均質はないことから,月の表/裏のマグマ活動の二分性の程度は時代とともに変化してきたことを示唆している.
2: おおむね順調に進展している
昨年度予定していた通り,20箇所LGA領域のうち10箇所について,データ収集を実施した.また,もっとも規模が大きいLGA1領域について,詳細解析のための予備的な分光データ解析を完了し,今後の詳細解析に向けた解析手法の確立ができた.そのほかの領域のデータ収集についても手順が確立しているため,より効率的に実施できるようになった.
平成29年度に実施したLGA1周辺の簡易地質調査の結果を検証するために詳細解析を実施する.具体的には,「かぐや」連続スペクトルデータ,地形データを用いて,貫入岩路頭の組成調査,形成年代の下限値を決定する.形成年代の制約にはクレータ年代学を用いる.また昨年度に引き続きそのほかの領域のデータ収集と解析領域の選定を実施する.データの詳細解析に関して,地質史解読には,より地球化学的,岩石学的な専門知識が有用であることから,当分野の専門家である連携研究者である長岡央氏と連携を深める予定である.
当初リモートセンシングデータの解析ソフトであるENVIを使用しデータ準備作業(モザイク処理,地形解析)を実施予定であったが,まずは解析手法の有用性の確認のために独自作成ツールで対応した.次年度に解析ソフトの購入を予定している.
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