研究課題
月のマグマオーシャンの固化とその後に起こったマントルの再溶融に至る,月初期の熱進化については未だに解明されていない.本研究は近年発見された,太古の時代のマグマ貫入の痕跡と考えられる線状の重力異常(LGA)に着目し,貫入岩路頭の探索とマグマ組成の調査から,月の冥王代とも言える時代の火成活動の復元を目指すものである.平成30年度は,前年に引き続き,貫入岩路頭の探索のための解析領域選定とデータ収集・整備を行った.さらに,それらのデータを用いて,線状重力異常を作った月初期のマグマ貫入イベントの後に形成された衝突盆地である,Crisium盆地のリングにおいて,Crisium形成によって地表に露出した貫入岩路頭の探索を行った.貫入岩探索のためにまず,スペクトルデータから玄武岩質岩石を同定するための手法開発を行った.具体的には,アポロサンプルのスペクトルデータベース(RELAB)を使用し,月面に存在する岩相のなかで玄武岩のみが持つスペクトル特徴を玄武岩指標として抽出することで,玄武岩探索方法を確立した.その玄武岩指標を用いてCrisium盆地のリング領域の「かぐや」マルチバンドデータに適用し,玄武岩探索を行った.その結果,Crisium盆地のリング領域内に高Fe領域は少数存在するものの,その大部分はトロクトライト的岩石であった.一方で,その中の5%程度が玄武岩的スペクトルを示した.これらの領域のTi量もアポロ玄武岩試料の値に近いことから,発見された物は太古の貫入岩であると結論づけられる.
2: おおむね順調に進展している
解析領域の選定とデータ収集・整備が当初の予定通りに実施できた.さらに解析領域の中で最も重要と思われるCrisium盆地における解析によって太古の玄武岩が発見できた.また,この解析を通じて,解析手法を確立することができ,今後の他の領域の解析が効率的になることが期待できる.当初の計画では画像解析においてENVIを使用する予定であったが独自開発ツールで実施ができる見込みがたったため,新規購入を取りやめた.
今後はその他の領域に関しても同様の解析手法を適用し,マグマ貫入量・組成の空間・時間変化について調査する.また,クレータ年代学を用いて,貫入岩路頭の露出年代を決定し,マグマ貫入年代の下限値を制約する予定である.また得られたマグマ組成の解釈において,月試料分析の専門家であり,本科研費の連携研究者である長岡央氏(宇宙航空研究開発機構)との議論を深める予定である.
画像解析ソフトENVIを当初購入予定であったが,本研究を遂行する上で汎用的である独自ソフトを開発したため,物品費を抑えた.一方で,解析方法とソフト開発に関する打ち合わせを行ったため旅費の配分を増やした.当初の予定よりも解析手法を多様化させたことでデータプロダクトが増えたため,解析計算機の計算性能を向上させるとともにハードディスクの追加が必要である.そのため新規計算機とバックアップ用のハードディスクの購入を予定している.
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Icarus
巻: 321 ページ: 407-425
10.1016/j.icarus.2018.11.016