研究課題/領域番号 |
17K05633
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諸田 智克 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (30415898)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 月 / 海の火成活動 / マグマ組成 / 線状重力異常 / 熱史 |
研究実績の概要 |
月の形成後,マグマオーシャンの固化による地殻とマントルの形成とその後に起こったマントルの再溶融までの月初期の熱進化については未だに解明されていない.本研究は近年発見された,太古の時代のマグマ貫入の痕跡と考えられる線状の重力異常(LGA)に着目し,貫入岩路頭の探索とマグマ組成の調査から,月の冥王代とも言える時代の火成活動の復元を目指すものである. 令和元年度は,前年に引き続き,貫入岩路頭の探索のための解析領域のデータ収集・整備を行うとともに,最大の線状重力異常であるLGA1とLGA2領域の組成解析を新たに行った.LGA1は月裏側の北半球に位置しており,最も地殻が厚い領域であり,LGA形成後の天体衝突によって貫入岩の露出は起こっていないと予想される領域である.一方でLGA2は月裏側の南半球に位置しており,LGA形成後に巨大な天体衝突によって貫入岩が表面に掘り返されていると期待される領域である.さらに,それらの解析結果と前年度に解析を行ったCrisium盆地のリング(LGA4)での結果との比較も行った. LGA1とLGA2での貫入岩探索のためにまず,前年度開発した玄武岩質岩石を同定するための手法をそれぞれの領域に適用した.その結果,LGA1ではその周囲に玄武岩質岩石はほぼ発見されなかったのに対して,LGA2付近には複数の領域で玄武岩質岩石が発見された.LGA2では貫入岩を掘り返していると思われる大クレータの放出物に玄武岩が発見されたことから,これは太古代の貫入岩である可能性が高い.この玄武岩もCrisium盆地のリングで発見された玄武岩と同様にチタン量は低く,低Ti玄武岩に分類される.線状重力異常を形成した太古代のマグマは低Tiである傾向があり,この結果は月のマグマオーシャンで形成された直後の上部マントル組成を制約する重要な情報である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた研究課題の解析作業の大部分は完了していたが,COVID-19の影響もあり,成果内容の議論の場として予定していた国際会議(51st Lunar and Planetary Science Conference)や,国内研究者との研究打ち合わせが中止となったため,論文執筆に向けた追加解析課題の洗い出しができていない.また,COVID-19の影響でデータ保存・論文執筆用に購入を予定していたPCの納期が遅れていたため,今年度中の購入ができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は解析結果とデータの整理,月の岩石試料研究や月の熱史の理論研究を行っている研究者との議論を行い,研究結果の解釈を深めるとともに,並行して論文執筆を進める.具体的には,月試料研究との比較から,貫入岩の組成の空間分布や年代分布との比較からLGA形成檀家におけるマグマ組成の時空間変化について,月熱史の理論研究との比較から,マグマ形成領域の特定とその時間進化について考察を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で,成果報告の場として予定していた国際会議(51st Lunar and Planetary Science Conference)や,論文執筆に向けた国内研究者との研究打ち合わせが中止となった.また,COVID-19の影響でデータ保存・論文執筆用に購入を予定していたPCの納期が遅れており,2019年度中の購入が出来ずに,論文執筆が間に合わなかった.そのため,2020年度に追加解析と論文執筆用のPCの購入と成果報告のための旅費が必要となった. 追加解析,データ整理,論文執筆用のPCの購入に関しては2020年度初めに購入予定である.また当面は国際会議や国内学会,研究会はオンライン開催となるため,旅費に関しては2020年度後半に予定されている国際会議で執行予定である.
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