昨年度実施した数値計算において,低速度領域で用いたガス抵抗の式の係数を低く見積もっていることが判明した。微惑星の移動はガス抵抗によって駆動され,低速度領域ではそもそもあまり微惑星の進化は生じないことから,この影響は大きくないと考えたものの,すべての計算を実行し直した。その計算から,前年度の結果と比べて,ある最高速度を得るために必要な微惑星サイズはわずかに大きくなるが,100 kmサイズ以上の微惑星の軌道進化にはほぼ影響がないことが確かめられた。これは,微惑星進化が共鳴の位置によって区切られており,ガス抵抗によってある距離を移動する時間は変化するものの,経路自体には変化が起きにくいことによる。 前年度の研究を進展させ,木星がどの程度の大きさに成長したときに微惑星移動が顕著となるかを調べた。前年度の結果と現在の小惑星の分布と照らし合わせると,木星形成と同時期には微惑星が100 km程度まで育っていた可能性が考えられる。微惑星の移動の時期は,微惑星自体の加熱や周囲の物質の加熱の時期となるため,太陽系物質の年代学を考える上ではっきりとさせておきたい事柄の一つである。そこで,木星の成長がどの程度進んだ時に微惑星移動が開始するか,木星のサイズを変えて微惑星の軌道進化を数値計算をした。木星が現在の10分の1の質量では,微惑星移動はあまり顕著ではなく,ガス円盤との相対速度も10 km/sにはほぼ達しない。木星が現在の3分の1まで成長すると,相対速度は10 km/sに達するようになる。つまり木星がガス捕獲後半に達してから原始惑星系円盤が散逸するまでが,本研究で扱う微惑星軌道進化の時期となることが判明した。
|