研究実績の概要 |
本研究のベースとなるMatsumoto et al. [2015]で用いた内部構造モデルを拡張した。月を次の9層の球殻に分割した:(1)メガレゴリス、(2)地殻、(3,4,5,6)マントル1-4、(7)低速度・低粘性層、(8)流体外核、(9)固体内核。これまでは、各層の厚さ(t)、密度(ρ)、弾性率(μ、κ)、粘性率(η)をパラメータとしていたが、マントル部分(3-6)について新たなパラメータ化を導入した。すなわち、組成と温度を1次パラメータとし、これを基に2次パラメータである密度・弾性率を計算する部分を追加した。
組成パラメータとしてAl2O3, FeO, MgOそれぞれの濃度を考慮し、Kronrod and Kuskov [2009]に従ってギブスエネルギーの最小化によって熱化学的に密度・弾性率を計算した。この新たなモデルを用いて試験的にインバージョンを行った。その際、観測値として月の質量、慣性モーメント、ポテンシャルラブ数k2、1か月および1年周期のQ、および月震走時を考慮した。しかし、予想されたことであるが、温度と組成の間にトレードオフがあり、それぞれの分離が困難であることが分かった。これは、温度に感度を持つ電磁気データの重要性を示すものである。そこで、まず中間的な成果として、マントルの温度は深さ方向に一定勾配を持つと仮定し、この仮定の下に上述の地球物理学的観測と熱化学的制約の双方に調和的な月マントル構造モデルを構築した。この部分はロシアの研究協力者Ekaterina Kronrod氏を2か月間招へいして行った。
Tobie et al.[2005]に従って低粘性層における潮汐による発熱量を計算するコードを追加した。この部分は連携研究者の鎌田氏によって行われた。
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