研究課題/領域番号 |
17K05649
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水田 元太 北海道大学, 地球環境科学研究院, 助教 (30301948)
|
研究分担者 |
中野 英之 気象庁気象研究所, 全球大気海洋研究部, 主任研究官 (60370334)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 西岸境界流 / 再循環 / 東西縞状構造 |
研究実績の概要 |
黒潮続流や湾流の様な中緯度の強い海流は再循環とよばれる流れや東西縞状に延びるフロント構造を伴う。これらの流れの特徴は熱や物質の輸送に重要と考えられるがそのしくみは十分明らかでない。本研究ではこれまで再循環が従来の渦位一様化(Rhines and Young 1982)ではなくロスビー波の放射によって駆動されることを強く示唆してきたが、黒潮続流の様な東向きジェットからロスビー波が放射されるしくみは不明な点が多い。渦どうしの非線形相互作用は有力なしくみだが、数値実験で見られる渦位輸送は複雑な分布をしておりそれのみで解釈することはできない。本研究では東西周期境界条件を用いた理想化された数値実験を行うことで(1)再循環のradiative instability (Talley 1983)、(2) 再循環にとりこまれた渦による非ノーマルモード型不安定(Farrel and Ioannou 1996)の2つがロスビー波の放射を起こすことを見出した。より現実的な流入流出境界条件を用いた数値実験の結果を解析すると(2)のしくみが卓越していることが分かった。この様に再循環の複雑なしくみを解明するための基礎的しくみを理解することができた。 一方、東西縞状のフロントに関しては、従来黒潮続流がシャツキー海膨とぶつかることによって生じるという推測が多くなされて来た(Mizuno and White 1983)。しかし理想化された数値実験の結果から、海膨がなく海底が全く平坦であっても東西縞状フロントが生じることが示された。また現実の北太平洋の東西縞状フロントはゆっくりと南下し、数年規模の変動を引き起こすことが示されているが(Nakano 2018)、この様な南下速度は風による表層のスベルドラップ輸送速度とよい対応が見られることが示された。同時に、フロントに沿った高渦位の水塊の貫入も見られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒潮続流や湾流では流れの不安定によって渦やロスビー波が生じてエネルギーや渦位が散逸される。その過程で、再循環、東西縞状フロントなどを生じる。これらの過程は海洋表層の風成循環の中でも特に理解が進んでいない部分であり、本研究はこれらの過程を包括的に理解することを大きな目的としている。本研究ではロスビー波が再循環の形成に重要であることを示してきたが、本年度は理想化された数値実験によってロスビー波が渦による非ノーマルモード型不安定によって発生し得ることが示された。このことは、今後より現実的な数値実験の結果を解釈するための重要な基礎として役立つことが期待される。東西縞状フロントに関しても海底地形など複雑な影響を除いた数値実験で再現することに成功し、風応力の分布を変えて多くのパラメータ実験を行うことも出来た。これらの結果は今後、東西縞状フロントの形成、南北移動のしくみのより良い理解につながることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では理想化された数値実験によって渦どうしの非線形相互作用や非ノーマルモード型不安定がロスビー波の発生に寄与し得ることが示された。これらの知見を元に再循環のしくみを理解することを目指す。具体的には流入流出境界条件を用いた数値実験の結果を解析し、再循環を形成するための渦位輸送がどの様なメカニズムによって生じるかを調べる。これまでの解析では主に表層に着目して来たが、深層の渦位輸送のしくみは不明な点が多かった。これまで得られた基礎的な知見をもとに深層の渦位輸送のしくみについても理解を進めてゆく。またロスビー波の強さと再循環の東西幅にはよい相関があり、そのしくみについても考察する。東西縞状フロントが南下するしくみについてはpassiveなトレーサーを与える数値実験を行い、スベルドラップ流による移流の効果を見積もる。実際の東西縞状フロントは渦位、相対渦度などの流れの場と関係する量の偏差を伴うので、それらがどの程度passiveなトレーサーと近似できるかについても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は東西周期的境界条件を用いた比較的小規模な数値実験から有用な結果が得られたため、大型計算機器の使用額として当初計画していた予算に残額が生じた。これらについては、2020年度の計算機使用料、その他の計算機機器の費用、論文投稿料や英文校閲料に使用する予定である。
|