研究課題/領域番号 |
17K05653
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊賀 啓太 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (60292059)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 渦の室内実験 / 円筒容器内の流れ / 軸対称渦 / 境界層内の運動量輸送 |
研究実績の概要 |
底面付近に回転盤を設置した円筒容器内に水を入れて回転盤を高速で回転することにより大規模な水の渦を励起する室内実験について、特に定常的な対称渦ができるレジームに注目し、その境界層における角運動量交換の解析を行った。 定常的な対称渦の流れは主に周回方向の速度場で成り立っているが、この速度場の形成には、弱いながらも存在する鉛直循環による角運動量の輸送・分配が重要な役割を果たす。特に、内部領域と容器の側壁や底面との間に形成される狭い境界層の中での角運動量輸送は、流体が全体として形成する渦の速度分布に決定的な影響を与える。 この境界層内での角運動量輸送の形態は、大きく二つの可能性があった。すなわち、境界層の流れが整った層流状態であり、内部領域の流体と外部境界の固体領域との速度差に比例するような運動量輸送が行われる場合と、境界層の流れが乱れた乱流状態にあり、内部領域と固体領域の速度差の二乗に比例する運動量輸送が行われる場合である。今回、この二つの可能性を解析し、それぞれの妥当性を検討した。その際に、前年に行った室内実験の結果のうち、渦の中心が接地する円盤の回転数、初期水深と回転数に対応した中心部および側壁での水面高さなどの、円形渦が形成されるパラメータ領域での種々の実験結果が、それらから予想される運動量輸送の大きさの妥当性を検証する基礎データとして活用できた。 これまでの先行研究では、乱流境界層を仮定するものがいくつか見られていたが、今回の検討結果は、境界層が層流状態であり運動量輸送が速度差に比例することを支持するものであった。一方、室内実験で見られる流れの様子は、特に渦の表面付近の様子など、完全な層流では説明できない流れの乱れも示しており、この解析結果との整合性を検討する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では、円筒容器内に水を入れて底面付近の回転盤を高速で回転することによって大規模な水の渦を励起する室内実験を行い、実験パラメータによってどのような渦が生じるのかというレジームを、大局的に整理していた。今年度は、その実験結果を基礎データとして、渦を形成する循環流にできる境界層の中の流れの振舞と運動量輸送を解析することを大きな目標としていたが、層流境界層と乱流境界層の二つの可能性について解析し、またその結果の室内実験の結果をもとにした検討も行ったので、解析作業はほぼ予定通り進んでいると言える。 ただし、その結果は当初の予想と異なる方の流れのレジームに基づいたものとなっているため、この結果をもとに次年度の数値計算・不安定解析を進めるためには、引き続き解析の詳細の検討とさらには実験も適宜実施して、これらの結果をまとめる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に行った室内実験のデータおよび今年度に行った解析、特に境界層内の運動量輸送の見積もりの結果をもとにしながら、数値計算によってこの渦運動の中の鉛直循環の様子を再現する。その計算結果を解析することにより、この流れ渦の運動の中で見られる各物理量の輸送の収支の様子を調べる。また、求められた軸対称流れのレジームの結果をもとにして円形渦の基本場を設定し、その流れ場に対する擾乱の固有値問題を解いて不安定性を調べるなど、非対称現象のメカニズムを調べる理論解析を進める。 いずれの解析に対しても、室内実験のデータをこれらの解析の妥当性を確認する指針・検証として用いる。ただし、実験結果の一部については、渦の振る舞いのパラメータ依存性が複雑なものであることがわかっているので、そのようなケースについて、実験結果を確認するため室内実験による測定も適宜引き続き行い、必要となる基礎データを取得する。特に、特定のパラメータ領域で観察された非定常な波動現象については、不安定現象の一つとして解釈される可能性があると考えているので、この現象を特徴づける量の測定を行って、その概要把握に務める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 解析を行うのに必要となったデータの量が少なかったために、そのためのメディアが当初予定より少なく、若干次年度に使用する額が生じた。 (使用計画) 次年度で、数値計算の結果のデータを整理するのに必要なメディアに充てる予定である。
|