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2018 年度 実施状況報告書

浅海の生物生産性と温泉成分の関係解明を目指した海底温泉湧出探査手法の構築

研究課題

研究課題/領域番号 17K05655
研究機関京都大学

研究代表者

大沢 信二  京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード海底温泉湧出 / 曳航観測 / 溶存ガス / 温泉成分 / ラドン
研究実績の概要

森の栄養を海に運ぶ河川に次ぐ“水路”として海底地下水湧出(Submarine Groundwater Discharge,略してSGD)が注目を集めており,通常の地下水よりミネラル分に富み,かつ栄養塩のひとつであるケイ酸を豊富に含む温泉水もまた沿岸浅海域の生態系に大きく関わっていると予想している.本研究では,最新のSGD観測手法と伝統的な地球化学的調査方法等を組み合わせて海底温泉湧出探査法を構築し,別府湾奥部の別府温泉の沿岸域に散在すると予想される海底温泉湧出に適用して検出し,さらに陸域の熱水流動系との関係の解明や海底からの温泉流出量の推定などを行う.
研究2年目の本年度は,採水器で汲みあげられる深層海水に溶けているガス(N2,Ar,O2など)の濃度測定を想定して初年度(H29年度)に構築した真空抜気による溶存ガス分析法の実用性の検証を陸域の湧水を用いて行ったが,理論的に予想された抜気率に到達できず,かつ抽出ガスの化学組成が抽出率に依存するという要検討の結果が得られた.その一方で,日出沖から別府温泉を経て大分市西部に至る別府湾奥部沿岸域における表層海水のラドン濃度/塩分/水温の曳航観測データならびに別府湾に流入する河川,自噴する地下水や温泉水のラドン濃度/水温等のデータを整備することができた.
整備したデータを使い,ラドン濃度と塩分に着目した外洋水と陸水(河川水,地下水)の混合関係(ミキシング・ダイアグラム)に基づき,観測対象となった表層海水に占める地下水の混合率を導出したところ,海底地下水流出を指し示すエリアの存在が明らかとなり,さらに,それらのエリアについてラドン濃度と水温の関係を検討したところ,表層海水は高温でラドン濃度が低いものと,低温でラドン濃度が高いものに明確に2分され,前者が温泉水,後者が低温地下水の海底湧出に対応することが示唆された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度(H29年度)に構築した真空抜気による溶存ガス分析法の実用性(確度と精度)のチェックを,陸域の湧水を用いて行ったところ,理論的に予想された抜気率に到達できず,しかも抽出ガスの化学組成が抽出率に依存するという分析的に望ましくない結果となった.また,本年度までに,日出沖から大分市西部に至る別府温泉に接するエリアを含む別府湾沿岸域における表層海水のラドン濃度/塩分/水温の曳航観測データ(約570点)、ならびに陸域の調査によって入手した別府湾に流入する河川、自噴する地下水や温泉水のラドン濃度/水温等のデータを揃えることができた.
ラドン濃度と塩分に着目した外洋水と陸水(河川水vs海水,地下水vs海水)の混合関係(ミキシング・ダイアグラム)に基づき,観測対象となった表層海水に占める地下水の混合率を導出したところ,海底地下水流出でしか説明できないエリアが別府北部,別府南部にそれぞれ2ヶ所ずつ存在することを明らかにした.さらに,それら4つのエリアについてラドン濃度と水温の関係を検討したところ,表層海水は高温でラドン濃度が低いものと,低温でラドン濃度が高いものに明確に2分され,それぞれが温泉水と低温の地下水の特徴と合致していることを見出し,このような曳航観測によるラドン濃度/塩分/水温の複合観測・解析法によって海底温泉湧出の検出が可能であることを示すことができた.

今後の研究の推進方策

明らかとなった真空抜気による溶存ガス分析法の不具合に対して,液性調整とガスパージを併用した改良法への検討と検証を行う.
別府湾におけるラドン濃度/塩分/水温の複合観測・解析法によって推測された海底温泉湧出域において,ドローン等を利用した熱赤外観測を実施し,海底温泉湧出の存在を検証する.また,同じく曳航観測データを活用し,Sugimoto et al.(2016)等の方法にならい,別府温泉沿岸部におけるラドン・塩分収支モデルから海底への地下水の総流出量を推定する.
別府湾における曳航観測に使用したラドン濃度観測装置にフロースルータイプのCO2ガス・プルーブを組み込んで全溶存炭酸(DIC)濃度も測定できるようにし,火山性CO2ガスの海底噴出が認められている大分県の姫島(大沢・三島,2017)において試験曳航を行う.テスト後,島周回曳航観測を実施し,沿岸域表層海水のCO2濃度/ラドン濃度等のマッピングを行い,新たな海底ガス流出域を探る.さらに,現有の土壌CO2フラックスメータを用いて陸域のCO2フラックス観測を実施し,姫島全島のCO2フラックス分布図を作成し,沿岸海域のCO2データと比較検討する.
以上の研究成果を,随時,関連学会で発表する.

次年度使用額が生じた理由

本研究では,沿岸域とは言え,海上での観測を伴うため,計画実施に際して天候や海況の影響を受けやすい.本年度は海底温泉湧出の海面への熱的反映(温泉水の湧昇流の存在)を捉える熱赤外観測を計画し,必要器材も準備したが,すでに厳冬季に入っていて実行に至らず,観測等に必要な予算を次年度に繰り越して改めて実施することにした.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] コンパクトなサーモグラフィ・カメラを用いる温泉調査について2018

    • 著者名/発表者名
      大沢信二,三島壮智
    • 雑誌名

      大分県温泉調査研究会報告

      巻: 69 ページ: 23,30

    • オープンアクセス
  • [学会発表] ラドン曳航観測データを用いた別府湾沿岸域の海底温泉の検出2018

    • 著者名/発表者名
      岸田立,本田尚美,三島壮智,杉本亮,谷口真人,大沢信二
    • 学会等名
      日本陸水学会第83回大会岡山大会
  • [学会発表] 真空抜気溶存ガス分析法の構築2018

    • 著者名/発表者名
      三島壮智,網田和宏,大沢信二
    • 学会等名
      日本陸水学会第83回大会岡山大会
  • [学会発表] 別府市内の温泉利用が河川や沿岸生態系に及ぼす影響について2018

    • 著者名/発表者名
      山田誠,小路淳,杉本亮,大沢信二
    • 学会等名
      日本陸水学会第83回大会岡山大会

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公開日: 2019-12-27  

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