森の栄養を海に運ぶ河川に次ぐ“水路”として海底地下水湧出(Submarine Groundwater Discharge,略してSGD)が注目を集めており,通常の地下水よりミネ ラル分に富み,かつ栄養塩のひとつであるケイ酸を豊富に含む温泉水もまた沿岸浅海域の生態系に大きく関わっていると予想している.本研究では,最新のSGD 観測手法と伝統的な地球化学的調査方法等を組み合わせて海底温泉湧出探査法を構築し,別府湾奥部の別府温泉の沿岸域に散在すると予想される海底温泉湧出に適用して検出し,さらに陸域の熱水流動系との関係の解明や海底からの温泉流出量の推定などを行うことを目指した. 最終年度は,別府湾における曳航観測に使用したラドン濃度観測装置にフロースルータイプのCO2ガス・プルーブを組み込んで全溶存炭酸(DIC)濃度も測定できるように設計し,これと並列にpH,酸化還元電位(Eh)などの一般水質項目についてもフローセルを使用して連続的にデータ取得を行うことができるように曳航観測システムを拡張再構築した.この拡張曳航観測システムを用いて,前年度,ラドン-塩分-水温曳航観測システムによって海底温泉湧出域が想定された別府湾と,火山性CO2ガスの海底噴出が認められている大分県の姫島の沿岸海域(大沢・三島,2017)において試験曳航を行った.その結果,別府湾では,Eh-pH図上で認められた低pH異常水域が,想定された海底温泉湧出エリアに対応することを見出し,姫島海域においては,CO2濃度とpHの値について部分的ではあるものの逆相関関係が存在し,「アルカリ性である海水による酸性ガスのCO2の吸収」現象を見事に捉えることに成功した.これらのことから,CO2-Rn観測ユニットとフローセル水質測定ユニットを組み合わせた新たな曳航観測システムの有効性と実用性が一度に示された.
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