研究課題
NH4SH 生成反応に伴う負の浮力が雲対流の発生を抑制する効果を調べることを目的として以下の 2 つを行なった.(1) 化学平衡を仮定することで対流抑制の条件式の導出を行った.従来の議論 (e.g. Guillot, 1995) では単成分の凝結に伴う対流抑制の可能性しか検討されておらず, NH4SH の生成反応については検討されていない.我々の導出した条件式より,NH3 と H2S の存在度が太陽組成のおよそ 30 倍よりも大きい場合には化学反応によっても対流抑制の可能性があることが示された.(2) 系に与える凝結性成分気体の存在度をパラメタとした木星大気の雲対流の数値シミュレーションを行った. 従来の実験では全ての凝結性成分 (H2O, NH3, H2S) の存在度を太陽組成を基準に同じ割合で増減させていたが,本実験では NH4SH 生成反応にかかわる成分とそれ以外の成分の増減の割合を別々に与えることにする.H2O の存在度が太陽組成の 0.1 倍以下のケースでは,NH3 と H2S の存在度が大きくなるに従って対流運動が間欠的になる.具体的には,NH3 と H2S の存在度を 3, 10 倍としたケースでは定常的に対流圏界面まで発達する雲が発生し,NH3 と H2S の存在度を 30, 60, 100 倍としたケースでは対流圏界面まで発達する雲が準周期的に発生する.活発な積雲の発生の発生する周期は NH3 と H2S の存在度に比例する.これらの特徴は対流構造の H2O 存在度に対する依存性と整合的である.一方で H2O の存在度が太陽組成の 1 倍以上の場合には,強い対流運動が発生する周期が NH3 と H2S の存在度に比例して若干長くなるといった変化が見られるが,H2O 凝結高度から対流圏界面まで発達する雲が準周期的に発生するという定性的特徴には変化がなかった.
2: おおむね順調に進展している
大気中の凝結性成分の存在度をパラメタとして変化させた数値実験を進展することができ,従来検討されてこなかった化学反応に伴う負の浮力が雲対流の発生に与える影響について検討することができた.いくつかの数値実験については結果の解析が十分ではなく,また放射の代替として与える熱強制の大きさをパラメタとした数値実験の進展が弱いが,これらは次年度に十分挽回可能である.
次年度以降も雲対流の数値シミュレーションを継続して行う.水平鉛直 2 次元のパラメタ実験を徹底して実行することで,凝結性成分存在度と放射冷却率という 2 つのパラメタ空間上に雲対流構造を位置づける. いくつかの代表的なケースを選んで 3 次元の数値シミュレーションを実行することで,木星型惑星において生じうる雲対流構造の定性的特徴に対する理解を深める.これらの数値シミュレーション結果を通して,(1) 弱い放射冷却に起因する雲対流の間欠性と多量の凝結性成分に起因する飽和気塊に働く負の浮力の 2 つが雲対流の発生に与える影響を重点的に議論する.(2) 木星型惑星で観測される特徴的現象を説明可能なパラメタ範囲の掌握に向けた議論を行う.土星において観測される雲対流の間欠性を説明可能なパラメタ範囲を探索し,天王星と海王星の対照的な赤外放射量を雲対流の間欠性に伴う温度変化によって説明可能か検討する.以上の 2 つの議論により,未だに観測の進んでいない木星型惑星の組成や大気構造に対する理解の基礎を得ることを目指す.
年度末に予定していた研究打ち合わせが校務の関係でキャンセルとなってしまったために次年度使用額が生じた.次年度使用額は当初の計画通りに研究打ち合わせの出張旅費として使う予定である.
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九州大学大学院理学府 地球惑星科学専攻 修士論文
巻: - ページ: 1-34