研究課題/領域番号 |
17K05658
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
石橋 俊之 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (30585857)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 数値天気予報 / データ同化 / 観測データ / 観測誤差共分散行列 / 誤差相関 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、データ同化の高度化によって飛躍的に多くの観測情報の同化を可能にし、数値天気予測の精度を大幅に改善することである。H29年度の研究計画に沿って研究を遂行し、以下の成果を得た。 はじめに複数の推定手法を用いて観測誤差共分散行列(R)の推定を行った。観測と予測、解析値の差分情報を用いた推定手法(Desroziers et al. 2005)によって推定された観測誤差標準偏差は、現行値と比較してほとんどの観測種別で小さく、特に衛星観測では現行値の25%程度であった。水平相関距離の推定結果は現行の25倍程度の高密度同化が可能であることを示している。水蒸気に感度のある衛星輝度温度観測では強いチャンネル間誤差相関がみられた。以上の結果は他の推定手法による結果と概ね整合的であった。次に推定したRを同化システムに導入し、1か月間の解析、予報サイクル実験を行った。その結果、全球的に5日程度先までの予測精度が顕著に改善した。最も効果が大きいのは衛星観測が重要となる南半球であり、例えば予報時間2日程度までの高度場の予測の根平均2乗誤差 (RMSE)は10%程度減少した。Rの推定を再帰的に行った場合は、推定結果の変動が見られたが、これは推定手法の推定精度の範囲内と考えられる。また、夏期間で推定したRを冬期間で使用した場合でも精度は改善した。以上から、推定で得られたRは、季節変化や推定回数に強く依存しないロバストなものである。 現実大気を対象とする高精度な数値予報システムで、全観測を対象としたRの高精度推定とその導入による予測精度の顕著な改善を示したのは、本研究が初めてであり、科学的に重要な成果である。また、本研究の成果は、これまで経験的チューニングによっていたRの推定にかかるコストを大幅に軽減するため、今後の数値天気予報研究に大きく貢献することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究計画に沿って研究を遂行し、期待した以上の研究成果が得られているが、論文化作業がやや遅れたため、出版は次年度以降となったことを考慮し、”概ね順調に進展している”とした。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は当初の研究計画に沿って以下を行う。 初年度に開発した同化システムについて、随伴予測モデルをアンサンブル予報に置換したシステム(アンサンブル4D-Var)を構築する。アンサンブルメンバは100メンバ程度として、アンサンブル生成もアンサンブル4D-Varで行う。 精度を1か月程度の実験で評価する。観測情報の拡充の程度により、随伴モデルを使用した通常の4D-Varとアンサンブル4D-Varの精度がどのように変化するかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたデータ保存用の大型ストレージについては、所属機関の電力事情から導入を見送り、既存ストレージの利用、効率的なデータハンドリングで代替することとした。一方で当初計画より多くの研究成果が得られているため、同大型ストレージ予算及び海外発表のための旅費を論文掲載やオープンアクセス費用にあてることとした。掲載は次年度以降になるため、次年度使用額が生じている。
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