研究課題/領域番号 |
17K05658
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
石橋 俊之 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 主任研究官 (30585857)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数値天気予報 / データ同化 / 観測データ / 誤差共分散行列 / 誤差相関 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、データ同化の高度化によって、飛躍的に多くの観測情報の同化を可能にし、数値天気予測の精度を大幅に改善することである。2020年度の研究計画に沿って研究を遂行し、以下の成果を得た。 本研究で前年度までに構築した全観測データ及び背景場の誤差共分散行列を客観推定により高精度化するスキームについて、水物質の影響を受けた衛星輝度温度観測の誤差共分散行列の気象場への依存性(流れ依存性)を考慮するように高度化した。流れ依存性を考慮する従来の手法では、観測値と予報値の差の統計から、流れ依存した観測誤差分散をモデル化するが、観測誤差と予報誤差の分離は経験的調整によっており、誤差相関も考慮されていなかった。新手法では、誤差の分離や相関構造も含め、客観推定に基づいて流れ依存した誤差共分散が構築される。これにより、非線形性の強い観測演算子を持つこれらの観測からより多くの観測情報が適切に同化されることが期待できる。実際に全球数値天気予報実験システムによる夏期間と冬期間の各1 か月の解析・予報サイクル実験により、本研究で新しく構築した誤差共分散行列を用いた場合は、従来の誤差共分散行列を用いた場合(CNTL)よりも、解析や予報精度が全球的に改善することがわかった。ここで、誤差共分散行列は、これまでの実験と同様に、夏冬実験とも夏期間のデータで推定したものを用いており、冬実験でも予報精度が改善することは、推定した誤差共分散行列の堅牢性を示している。 感度実験として、水物質の摂動の時間発展をデータ同化の中で計算する場合としない場合の比較も行った。まず、水物質の摂動計算なしでもCNTLに比べ、高精度な解析が得られた。水物質の摂動計算なしは、ありに比べ、熱帯の予報初期の精度悪化傾向が見られたが、予報初期の境界層の水蒸気や気温では全球的に改善傾向も見られた。水物質摂動の課題を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究計画に沿って研究を遂行し、期待した研究成果が得られている。研究成果の一部は査読論文として出版されたが、今年度成果の論文出版が次年度となる等、論文化作業がやや遅れたことを考慮し、”概ね順調に進展している”とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度(2021)は、前年度までの成果を論文にまとめて出版するとともに、前年度までに開発した同化システムをさらに拡張して、より高度なアンサンブル同化と非線形性の強い観測データの同化を組みあわせる。観測誤差の時空間相関の導入による効果を評価する。これらについて、1 か月程度の期間の解析・予報サイクル実験を行い、予報精度や各観測情報のインパクと評価等を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
引き続き、当初計画していたデータ保存用の大型ストレージについては、所属機関の電力事情から導入を見送り、既存ストレージの利用、効率的なデータハンドリングで代替することとしており、一方で当初計画より多くの研究成果が得られているため、同大型ストレージ予算及び海外発表のための旅費を論文掲載やオープンアクセス費用にあてることとしている。国際会議の中止や延期もあり。研究成果の論文掲載は次年度以降になるものがあるため、次年度使用額が生じている。
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