本研究の目的は、データ同化の高度化によって飛躍的に多くの観測情報の同化を可能にし、数値天気予測の精度を大幅に改善することである。本研究ではこれまでに全観測データ及び背景場の誤差共分散行列を高精度に客観推定し、データ同化に用いることで、より多くの観測情報が適切に同化され、大気状態の解析や予報精度が顕著に改善し、データ同化システムの同化理論との整合性も向上することを示した。誤差共分散行列の推定は、Desroziers et al. (2005)の手法をはじめとする複数の手法で行った。客観推定された誤差共分散行列は、従来の経験的推定と比較して、誤差標準偏差は概ねすべての要素で小さく、特に水蒸気に感度のある輝度温度観測では25%以下、背景誤差では50%程度であった。輝度温度観測の水平相関距離の客観推定からは、従来の25倍程度の高密度同化が可能であることがわかった。また、水蒸気に感度のある輝度温度観測ではチャンネル間相関を考慮した同化が必要であることが示された。予報精度の改善は顕著で、予測の平方根平均二乗誤差(RMSE)の減少率は最大で10%程度であり、5日予報程度まで統計的に有意な改善が見られた。変分法評価関数のカイ2乗分布性による同化システムの理論整合性は、従来のシステムでは20%未満であるが、本研究のシステムでは95%以上であることが示された。これらの結果は、より多くの観測情報が理論的に整合的に解析場に取り込まれていることを示している。また、大気状態と地表面状態を同時に解析できるように全球大気同化システムを拡張し、大気モデルの下部境界条件と大気場の整合性の向上や、地表面付近の情報を持った観測の同化を可能にした。 最終年度であるR5年度は、これまでの研究で得られた高精度な背景誤差共分散行列をネットワーク理論に基づいて解析し、大気摂動の基本的な性質を明らかにした。
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