黒潮の源流域であるフィリピン東方海域は,北太平洋亜熱帯域の大部分を占めるモード水等の水塊の起源海域でもある.そこで,フィリピン東方海域の表層混合層への下層からの海水供給の影響を調べるために,二通りの方法で鉛直流の時空間変動特性を調べた. まず,アルゴフロートデータを鉛直分布の類似性にしたがって最大6海域に分け,それぞれの海域に対して衛星海面高度計データからAltimetry-based Gravest Empirical Mode(AGEM)法を用いて,高解像度の海水密度三次元場の時間変化を推定した.これをもとに,P-vector法を用いて,深度100mから400mまでの鉛直流を推定し,その時空間変動特性を調べた.その結果,北赤道海流の南部に鉛直流が常に上向きである海域があることが分かった.さらに,その強度は,準10年規模変動を示し,ラニーニャ(エルニーニョ)に約1年遅れて強(弱)まることも分かった.これは,亜熱帯循環内部領域を南に伝搬する中層の水温の準10年規模変動がこの海域で海面に出現していることを示唆する結果であり,準10年規模変動発生のメカニズムの解明に導く発見であると言える. さらに,Lowered Acoustic Doppler Current Profiler (LADCP)データとConductivity-Temperature-Depth (CTD)データにThurnherr (2011)のデータ処理法を施し,鉛直流の推定を行った. これらの成果は,国際学会で公表を行い,一部は国際学術誌で掲載された.将来の国際黒潮観測プロジェクト計画策定の基礎情報が得られた.
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