| 研究課題/領域番号 |
17K05664
|
|---|
| 研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
|---|
研究代表者 |
齋藤 冬樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 統合的気候変動予測研究分野, 技術研究員 (60396942)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
| キーワード | 数値モデリング |
|---|
| 研究実績の概要 |
研究代表者が開発を続けてきた氷床流動モデル Ice sheet model for Integrated Earth system Studies (IcIES)の改良を継続した。前年度の予備的な実験で検討した CIP(Constrained Interpolation Profile scheme) および、IDO(Interpolated Differential Operator) 法を再び検討した。当初は力学過程のみを対象として採用手法を CIP に決定したが、今後拡張を考えている熱力学過程および年代計算過程も含めて統合的に判断し直すために、場合によっては二次元的な力学過程と三次元的な熱力学・年代過程で異なる手法を採用することも踏まえ、CIP についても検討した。試験的に CIP 法(その派生であるいRCIP 法)を鉛直一次元の年代計算に導入し、種々の状況下での感度実験を行ったところ、今まで他のモデルで用いられてきた計算手法と比較して年代計算の精度が飛躍的に改良されたことを確認した。大規模な氷床流動モデルによる年代計算の新しい手法の提案になることから当年度は方針を変更し、CIP 法を用いた年代計算手法に関する論文投稿を行うこととし、論文にほぼ全ての感度実験を終え、執筆を開始した。次年度前半での投稿を目指す。CIP の有効性を確認出来たことから、熱力学・年代計算については CIP あるいはその派生手法を、力学計算には IDO を使用することで今後の開発を進める。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
氷の年代計算は氷床モデルに期待される出力として代表的なものの一つである。古気候復元の観点で氷床コア掘削を行われているが、その解釈のためにも過去の氷床変動の再現と組み合わせて議論することが望ました。この年代計算は移流方程式そのものを解くことであり、移流計算手法の比較としては最適なものの一つである。そこで、今後のさらなる拡張を考え、年代計算の数値手法を見直すことにした。モデルの再現性や精度を確認する有効な方法の一つは、解析的な解が得られる理想的な条件下で、モデルの解と解析的な解を比較、議論することであり、昨年度開発したその目的に特化した氷床モデル(モデル名 Unnas) を元に鉛直一次元の年代計算の解析解について考慮しつつ、感度実験を行った。比較は基本的な手法としてよく用いられている、一次の上流差分および二次の上流差分を使用した。解析解は氷厚不変かつ降雪一定の場合で求められるが、上流差分で見られる解の拡散が CIP 法でよく抑制されていることが確認出来た。手法の実装の妥当性を確認したところで、氷厚が時間変化する場合や、降雪が時間変化する場合などの感度実験を行ったところ、拡散の軽減に加え、位相の保存が精度よく再現されていることが確認された。氷の年代は底面近くになるほど変化が大きくなり、精度よい計算のためには高解像度化が必要になる。そこで、与えられた降雪量変動や氷厚と、必要な年代計算の精度を元に、最適な鉛直層設定をあらかじて求める手法を開発し、その効果を確認した。以上を元に、CIP の年代計算に関する有効性についての学会発表を行い、また論文を執筆中である。
|
| 今後の研究の推進方策 |
次年度は氷床モデルにおける氷年代計算の CIP 法の有効性について論文投稿および学会発表を行う。この手法で CIP の有効性が確認出来たことから、三次元熱力学過程への実装を開始する。年代計算は簡単化のため鉛直一次元に制限して実装・開発したが、三次元熱力学過程への実装には多次元化という困難がある。CIP 法に関しては多次元化の手法のついての論文もあることから、それらを参考にしつつ、特に氷床モデルにとって有効な手法を検討する。予備的な調査かから、三次元の系として解を求める手法よりは、鉛直方向(一次元)と水平方向(二次元)で解法を分割し、それぞれで CIP 法を用いるのが適当であると考えられる。力学、熱力学過程の移流輸送を計算の開発実装を継続し、それぞれおよびその組み合わせで、理想的な条件下での実験を多数行い、新手法の有効性と、従来の手法による計算の不確定性を議論する。実験は氷床モデル比較プロジェクト European Ice Sheet Modelling INiTiative (EISMINT)および Ice Sheet Model Intercomparison Project(ISMIP) の提案した実験に準ずる。これらの実験は世界の氷床モデルの基本的な実験として考えられ、多くのモデルの振る舞いが記述されてきた。系を単純化しているため、様々な効果を定量的に議論することが容易である。この実験を通じて氷床モデルの移流・輸送方程式について統合的に議論する。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
当初計画の変更により、次年度に行う予定であった、年代計算手法に関した数値モデル開発課題を優先したため、平成30年度の予算の多くが未使用となった。る。現在新たな氷床コア掘削についての研究が世界的に進行していることから、こちらを優先し、年代計算についての新手法の論文をなるべく早く投稿する必要があると判断した。次年度の使用計画としては、IcIES の開発と並行して、それを用いた論文投稿や学会発表などの成果の発表に多く使用する。
|
