研究課題/領域番号 |
17K05675
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
長橋 良隆 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (10292450)
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研究分担者 |
片岡 香子 新潟大学, 災害・復興科学研究所, 准教授 (00378548)
難波 謙二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70242162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 猪苗代湖 / 湖底堆積物コア / イベント層 / 放射性セシウム / 2011年東北地方太平洋沖地震 / グローバルフォールアウト |
研究実績の概要 |
本研究では,福島県の猪苗代湖において湖内を面的にカバーする17地点から湖底堆積物を採取し,1)地質学的・堆積学的検討から1888年磐梯山噴火に伴う密度流堆積物や2011年東北地方太平洋沖地震による混濁流堆積物などのイベント層を識別すること,2)採取した湖底堆積物コアの放射性セシウム濃度を測定し,2011年以降とそれ以前(大気圏内核実験)の放射性セシウム濃度のプロファイルを地層中に復元すること,これら1)と2)の結果を統合的に解析し,猪苗代湖における放射性物質の動態把握や放射性セシウム濃度の変化の将来予測を行う. 2018年度は,HR型不攪乱柱状採泥器を用いて,8地点から8本のコア(採取長18-47cm)を採取した.また,エクマンバージ採泥器を用いて,5地点の底質(10-17cm長のサブコア)を採取した.放射能濃度の測定は,2015年採取の4本,2016年採取の4本(2016H1コアは前年度に測定済み),2017年採取の5本が終了した.これらのコアについての層相観察と記載を行い,堆積物のスミアスライドを作成した.また,軟X線像撮影,XGTによる化学分析,粒度分析のための試料を採取した. コアの層序は,2016-H1コアと同様に上部から順に,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う混濁流堆積物(層厚数cm-28cm),明暗縞状の粘土層(層厚20cm程度),1888年磐梯山噴火の陸上ラハールに伴う密度流堆積物(層厚0.5-4cm),その下位の縞状粘土層からなる.ただし,1888年磐梯山噴火のイベント層が認められない地点もある.放射性セシウム濃度のプロファイルは,1950年代以降の大気圏核実験によるグローバルフォールアウトと2011年東京電力福島第一原子力発電所による放射能放出事象を追認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,猪苗代湖の水深60m以深の全域をカバーするために,17地点において湖底堆積物コアを採取する計画をたてた.2018年度の前半には,猪苗代湖北部の8地点においてHR型不撹乱柱状採泥器を用いた湖底堆積物コアの採取を行うことができ,当初の計画通り猪苗代湖のほぼ全域の17地点において湖底堆積物コアを採取できた.また,エクマンバージ採泥器を用いて,5地点の底質(10-17cm長のサブコア)を採取し,湖底堆積物の最表層の状況を確認できた. 放射能濃度の測定は,2015年採取の4本,2016年採取の4本(2016H1コアは前年度に測定済み),2017年採取の5本が終了している.放射能濃度の測定試料については,分析補助者を雇用して,測定前処理とデータ処理を効率的に進めることができた. 先に述べたコアの層相観察の結果から,標準的な層序を構築することができた.すなわち,上部から順に,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う混濁流堆積物(層厚数cm-28cm),明暗縞状の粘土層(層厚20cm程度),1888年磐梯山噴火の陸上ラハールに伴う密度流堆積物(層厚0.5-4cm),その下位の縞状粘土層である.ただし,1888年イベント層が認められない地点もある.放射性セシウム濃度のプロファイルは,1950年代以降の大気圏核実験によるグローバルフォールアウトと2011年東京電力福島第一原子力発電所による放射能放出事象を追認することができた.また,堆積物コアからは,軟X線像撮影,XGTによる化学分析,粒度分析のための試料を採取した.採取試料の分析は,共同研究者の協力を得て進めているところである. 以上述べたように,コア採取は計画通りに進めることができ,放射能濃度の測定も計画通りに進んでいる.化学分析と粒度分析は今後進めていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の前半は,2018年度に採取した8地点の湖底堆積物コアの層相記載と放射能濃度測定および各種分析のための試料採取を進める.放射能濃度の測定試料の採取と測定前処理は,分析補助者を雇用して効率的に進める.放射能濃度の測定は,1試料あたり約1日かかるため,全ての試料の測定が終了するのは年度末になる可能性がある.ただし,これまで行った湖底堆積物コアの層相観察と放射能濃度の測定結果から,過去約150年間のイベント層を含む標準層序とグローバルフォールアウトを含む放射性セシウム濃度のプロファイルとの対応についての見通しはついている. さらに,2018年度に採取した堆積物コアの層相観察と記載が終われば,1888年磐梯山噴火に伴うイベント層と2011年地震にともなうイベント層の猪苗代湖底における分布と層相変化が明らかになる.これらのイベント層はコア間の放射能濃度のプロファイルを比較するためにも大変重要である.さらに,この2つのイベント層の発生から猪苗代湖底に堆積するまでの過程は,火山学や堆積学あるいは地震学的に大変興味深いものであり,粒度分析や化学組成分析からもその成因について検討する. 2019年度は,放射能濃度の測定試料を追加しつつ,これまで得た堆積物コアの層序(イベント層を含む)と放射能濃度の測定結果に基づいて,放射性物質の動態把握と放射性セシウム濃度の変化の将来予測について検討する.検討は,1950年から1980年に行われた大気圏内核実験による放射性物質が,猪苗代湖の湖底堆積物においてどのように蓄積(減少)しているのかの地層記録を詳細に復元し,これを2011年以降に適用することで,2011年以降の変化の予測を実証的に行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
湖底堆積物の採取が天候に恵まれたことと採泥作業に慣れたことから失敗がほとんど無く順調に進んだ.そのため,作業艇の借り上げ経費が計画より低く抑えることができた. 次年度は,補助的に湖底堆積物の採取を行う可能性があるため,作業艇の借り上げ経費が必要になる.また,化学分析や粒度分析を実施するための消耗品類と各種分析を効率的に進めるための分析補助者の雇用経費にあてる.その他に複数回の学会発表旅費に充当する予定である.
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