研究課題
今年度は,公務のため海外への長期出張が適わず,①日本の白亜系の野外調査及び砕屑性ジルコン研究,②ロシア・ハバロフスク地方から採取済みのジュラ~下部白亜系砂岩の砕屑性ジルコン研究,③東アジアの火成ジルコン及び砕屑性ジルコンに関する文献調査と,④ジルコンのHf同位体比の測定を行った。日本の白亜系については,西南日本内帯には比較的稀な白亜紀中葉の地層と,北海道の白亜系を主に扱った。前者はいずれもトランス・ハドソン期(2,100~1,800 Ma)のジルコンを40%以上の割合で含むことから,同時期の火成岩・変成岩類が広く分布する北中国地塊から砕屑物の多くが供給されたと考えた。北海道の白亜系については,次段落で述べる。ロシア・ハバロフスク地方で採取した試料の測定結果の一部は,ロシアの共同研究者とともに論文として公表した。上記試料の最大の特徴は,古生代の砕屑性ジルコンを25~60%の割合で含むことであった。これは,推定される後背地であるブレア-ハンカ地塊の火成岩の年代分布を反映する。一方,北海道の最上部白亜系(函淵層群,佐呂間層群)には,同様に古生代のジルコンを多く含む特徴があった。これは,日本の他のジュラ~白亜系では今まで見出されていない特徴である。特に,佐呂間層群は,オホーツク海地塊の縁辺で堆積したものと考えられているため,今は海中に沈んだオホーツク海地塊の火成岩の年代構成を佐呂間層群のデータが示すのか,別の解が存在するのか,今後の要検討事項が明らかになった。中国については,日本とは桁違いにデータが出され続けているため,データの質に一部心配があるものの,今後,ジルコン中の同位体に関する文献調査を重点的に実施し,データベース作成に努めることとする。また,ジルコンのHf同位体比の測定も開始しており,令和元年度には結果と解釈を公表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
ロシア・ハバロフスク地方の砕屑性ジルコン年代分布については,野外調査を断念したこともあり,当初の予定より測定した試料数が少なかった。しかし,昨年からのデータの蓄積で全体の特徴が判明し,論文を出すことができた。また,北海道の最上部白亜系との比較から,オホーツク海のテクトニクスに関する新たな課題が鮮明になってきた。更に,西南日本内帯の白亜紀中葉の地層に関する自前のジルコン同位体データや,東アジアのジルコン同位体に関する文献調査とデータベース作りも進展し,一部は学会発表までこぎ着けた。ジルコンのHf同位体比の測定は,平成29年度当初の予定よりは遅れているが,測定を開始し継続の目途もついている。以上を総合して,概ね順調に進展していると自己評価した。
今後の研究の推進方策は,以下の3点に集約される。1.ロシア沿海地方の砕屑性ジルコン研究:平成30年度に実施できなかった,ロシア沿海地方の砕屑性ジルコン研究を行う。ロシア沿海地方は,ハバロフスク地方と日本列島日本海側の間に位置する。サマルカ帯およびタウハ帯のジュラ紀~前期白亜紀付加体およびジュラブレフカ帯の前期白亜紀砕屑岩類を野外調査し,砂岩試料を採取する。試料から砕屑性ジルコンを分離し,U-Pb年代分布とHfモデル年代を測定する。これらのデータから,砂岩の後背地を推定する。従来,砕屑性ジルコンを用いた後背地解析はU-Pb年代分布のみによるものが多かったが,Hfモデル年代を導入することで後背地のより詳細な拘束が可能となるとともに,後背地の地殻形成年代に関する情報も得られる。2.東アジアのジルコン同位体に関する文献調査とデータベース作り:極東ロシアからインドシナ半島にかけてのデータベースを作成し,下記3の比較検討の根拠データとする。3.日本のジュラ~白亜系のU-Pb年代分布(多くのデータあり)およびHfモデル年代(新規データ)を大陸の同時代層および火成岩類とそれぞれ比較検討する。これらの作業より,日本~ロシア・ハバロフスク地方のジュラ~白亜系の後背地と堆積後の変位を推定し,アジア東縁の白亜紀テクトニクスモデルを構築する。
予定していたロシアの調査を実施できなかったため,予算50万円が余った。この次年度使用額を生かして,令和元年度にロシア・ハバロフスク地方の野外調査を実施する。
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