研究課題/領域番号 |
17K05678
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
吉田 孝紀 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (00303446)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ベンガルファン / ヒマラヤ山脈 / ガンジス川 / ブラマプートラ川 |
研究実績の概要 |
ヒマラヤ山脈の隆起と削剥の過程はインド洋北部の深海に位置するベンガルファン(海底扇状地)の堆積物に記録されている.この研究はベンガルファンの堆積物コアを利用し,約3000万年前から現在までの堆積物を高い時間分解能で解析し,砕屑物の起源とヒマラヤ山脈の隆起史を構築することを目的とする.そのために,コア試料から取り出した砕屑物中の重鉱物組成の検討と,陸上域の河川が運ぶ砕屑粒子の検討を柱として研究を進めた.今年度は,コアの重鉱物組成の検討を継続し,かつ,インド東部のブラマプートラ川上流域において現世砂を採取し,その特徴について検討した. これまでのコア試料の検討の結果,既に1800万年前にはヒマラヤ山脈の核心部をなす高度変成岩が露出していたことが,砕屑性ザクロ石の化学組成や,堆積物中の変成鉱物の存在から判明している.また,1500万年前からはヒマラヤ山脈の塩基性変成岩に由来する角閃石類が継続的にベンガルファンに供給され,400万年前には超塩基性岩類からの供給も増加したことがわかった. これらの砕屑物は,インド大陸北部に分布するガンジス川やブラマプートラ川の2大河川によってもたらされたと考えられる.これら現世河川の砂との比較の結果,ベンガルファンの堆積物はそれらの2大河川によって運ばれた砕屑物が様々な比率で混合したものであると推定された. 特に,1800万年前の砕屑物は現在のブラマプートラ川東部の河川砂と類似性を示すが,その後その特徴は失われ,ガンジス川河川砂との混合が強く生じたと推定される. この結果は,1800万年前に既に現在のヒマラヤ山脈の核心部を構成する高度変成岩が露出していた可能性を示唆する.その後,ヒマラヤ山脈における地質体の露出状況は1500万年前を境に大きく変化し,中新世後期にかけて現在のような供給水系が確立されたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体として当初計画に沿って順調に実施されている.ベンガルファン堆積物から採集された砂試料の重鉱物組成の検討では中新世でのヒマラヤ山脈の隆起と浸食について,①中新世初期に既に高度変成岩が露出していたこと,②中新世中期の初頭にヒマラヤの供給源構成に大きな変化が生じたことを明らかにした.特に,砕屑性ザクロ石や砕屑性角閃石の化学組成は源岩の推定に効果的であり,ガンジス川起源の砕屑物とブラマプートラ川起源の砕屑物が様々な量比で混合した可能性も,これらの砕屑粒子の化学的特徴から推定された.これらの結果は,2018年12月にアメリカ合衆国ワシントンDCで行われたAmerican Geophysical Union Fall Meeting で発表された.現在,最も砕屑物が厚く発達する中新世中期の堆積物の解析がなされつつある. 一方,砕屑性ジルコンのU-Pb年代の検討は,砂試料が細粒であり,ジルコン粒子が主にシルト粒子サイズ以下であることから,十分な粒子数の確保が困難であることがわかった.そのため,新たな試料をコアから採取する必要があるが,対象としているコアからの試料採取には制限があるため,他の掘削サイトでの試料採取を検討する. また,ガンジス川・ブラマプートラ川での砂試料採取については,ブラマプートラ川では順調に実施されている.採取された試料の解析も進行中であり,予察的な結果として斜長石,黒雲母,電気石の量比においてガンジス川下流域の試料と大きな差が見いだされた.また,ヒマラヤ山脈の東南方延長と見なされるビルマ山脈から由来した河川砂の組成が,ブラマプートラ川東部のそれとは大きく異なることも明らかとなった.その一方で,ガンジス川中流域・上流域での現世河川の試料採取は2018年9月にネパール西部からインド・クマウン地方を襲った集中豪雨によって交通網が寸断されたため,実施できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度実施できなかったガンジス川中流・上流域の試料採取を確実に実施することが必要である.その上で,重鉱物組成や砕屑性ジルコンの年代構成に取り組み,ガンジス・ブラマプートラ川の現世河川砂の全体的な特徴を把握することに注力する.これらの結果を2019年12月にアメリカ合衆国サンフランシスコで開催されるAGU Fall Meetingにおいて発表することを目指す. また,現在検討中のベンガルファンコアは非常に細粒であることから,砕屑性ジルコンが細粒であり,含有量が少ない.そのため,より粗粒な堆積物が保存されている可能性の高い他掘削地点のコアを利用し,新たにサンプリングを行い,ジルコン粒子の年代測定を進めることとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年9月にインド北部を襲った集中豪雨によって交通網が寸断され,試料採取地点へのアプローチが困難となった.そのため,試料採取後に予定されていた室内分析も困難となった.2019年度において再度試料採取を実施し,室内分析を行う予定である. 次年度使用額は平成31年度(2019年度)請求額と合わせて,試料採取および室内分析費用として使用する予定である.
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