研究課題/領域番号 |
17K05679
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
増田 俊明 静岡大学, 防災総合センター, 特任教授 (30126164)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロブーディン構造 / 核形成 / 結晶成長 / 長柱状鉱物 / 破断面 / レーザー顕微鏡 / FIB-SEM |
研究実績の概要 |
(1)試料の確保 丹沢山地北側の道志川地域で採集した角閃岩中に長柱状鉱物のマイクロブーディン構造を発見した。長柱状鉱物は小さすぎて鑑定が難しいが、おそらく角閃石と思われる。この鉱物が斜長石中に約40%の塑性歪を示すマイクロブーディン構造を呈していた。この角閃岩は、約1,500 万年前に噴出した塩基性火山岩が約400~500 万年前に変成作用を受けて形成されたものであると考えられている。この試料の発見で、古いもの(約33億年前に形成された電気石のマイクロブーディンをオーストラリアのピルバラ地域で採集したもの)から新しいもの(約4百万年:今回発見の角閃岩)までの長い期間をカバーするマイクロブーディン試料を入手した。
(2)破断面の形状 パキスタンから持ち帰った大理石中にマイクロブーディン構造を呈するトレモロ閃石が含まれていた。この試料のマイクロブーディン破断面のSEM観察を行った。その結果、一部で規則的な波状の部分を見出だした。これまでに調べたマイクロブーディン破断面では、不規則的で微細な凹凸から構成されており、パキスタンの試料のような波状の表面は、この試料のみで見られたもので、普遍的かどうかの確認が出来ないのが現状である。もしも普遍的であるなら、このような波状の形状は、破断が繰り返し少しずつ進展していることを示していると思われ、破壊力学のサブクリティカルクラックグロース(破壊強度以下の応力下で破断が進展する現象)が地下深部で起こっていることを強く示唆している。一方、もしそうなら、多くの不規則破断面はどのようなプロセスで形成されたのか考察か必要である。瞬間的に形成された破断面では、細かな凹凸が見られないからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料の確保及びマイクロブーディン破断面の観察はおおむね順調で、どちらも試料数を増やしている。本研究を遂行中に、破断面以外の変成鉱物の結晶表面の観察も行っており、長柱状結晶の長軸方向に平行な段差(ストリエーション)が見られる表面や不規則で微細な凹凸から成る表面など、全く異質の表面形状を確認した。これらの表面がどのような変成プロセスで形成されるのかについても知る必要性を感じ、マイクロブーディン破断面の観察だけでなく、それ以外の結晶表面全般についての総合的観察と、表面形状の比較をする方向で研究を進めている。また、金属やセラミックスの破断面の知識は鉱物にも応用できると考え、これらの物質のフラクトグラフィーの知識を蓄積中である。これらの研究とは別の視点に立ち、変成プロセスとして特に「変成鉱物の核形成」に注目し、カイネティクスを考慮した核形成速度の構築を目指した解析を行い、応力場で核形成が起こった場合に長柱状鉱物のプリファードオリエンテーションがどのように表現できるのか、というモデルを構築した。これにより、岩石中の結晶方位(面構造や線構造との関係)と表面形状の因果関係に関する検討も可能になりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
破断面の形成過程に着実に迫るには、破断面の観察だけでなく、結晶表面全般の知識が必要であることを痛感した。今後は、破断面の形状観察をこれまで通り遂行するとともに、それ以外の表面形状の観察にも労力を費やすつもりである。また、変成岩中の変成鉱物の結晶そのものの形成過程(核形成とその後の成長)に関しても知識を増やして行く必要を感じた。特に応力場での結晶の核形成・成長挙動は、まだ正しく把握できていないと思われる。長柱状鉱物や板状鉱物の核形成過程や、応力場でのオストワルトライプニング(結晶成長過程)についての理論的検討はまだ端緒についたばかりである、という認識を持つに至った。これらを総合的に理解するために、高温高圧場での物理化学現象を理論的に考察する必要がある。また、これまで100年以上に渡って世界中の研究者によって蓄積されてきた変成変形岩中の鉱物の配列情報を再検討し、問題解決への手がかりを明確にしたい。
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