研究課題/領域番号 |
17K05679
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
増田 俊明 静岡大学, 防災総合センター, 特任教授 (30126164)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロブーディン構造 / 核形成 / 結晶成長 / 長柱状鉱物 / 破断面 / レーザー顕微鏡 / FIB–SEM |
研究実績の概要 |
令和2年度は、静岡県外での野外調査を全く行わなかったので、新たな試料は入手できなかった。そのかわりとして、デスクワークを集中的に行い、これまで得られたデータを論文にまとめて1編を投稿し、それが採択された。長柱状鉱物粒子のマイクロブーディン構造の研究は停滞したが、マイクロブーディン現象の背景として、長柱状粒子がどのように配列するのか(鉱物の選択配向)を、MarchモデルとJefferyモデルを使ってシミュレーションを行い、鉱物の配列と歪の間に以下の様な関係があることがわかった。 (1)もしも変形前に鉱物の配列が完全にランダムならば、塑性変形がどのようなモード(単純剪断、純粋剪断、あるいはその両方の混交変形)で起こっても、配列の集中度は変形モードに依存せず、むしろ歪楕円の扁平度のみに依存することがわかった。これは実際の岩石の変形解析をする場合に、仮に歪楕円が計測でき配列の集中度が計測できても、変形モードはそれだけの情報ではわからない、ということを意味しており、岩石の歪解析の方向性を考え直す端緒となりうる事実である。 (2)塑性変形を記述する方法として、現状では、変形前と変形後の形態変化を利用して公称歪(conventional strain)を利用して行われていることが多い。しかし公称歪には、大変形を記述する場合に誤差が大きくなる、という弱点がある。大変形には変位速度場による記述の方が扱いやすいので、そこから得られる歪である自然対数歪(natural strain)を利用する方が、優れていることがシミュレーションを通じて明らかになった。公称歪は変形パスに依存した数値が得られてしまうが、自然対数歪は、変形パスにはよらず、始めの状態と最後の状態だけで決定できるので、変形パスを変化させるような複雑なシミュレーションの歪の記述に適している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)メタチャート中の藍閃石のマイクロブーディン構造を呈している1粒子を選んで、その粒子の周辺をFIB–SEMを用いて解析した。得られた断面イメージは545枚になった。各断面の間隔は数10〜数100nmである。藍閃石と、その周囲の石英はFIB–SEMイメージ上で識別可能であり、石英の方が暗っぽく見える。それぞれのイメージ上で、マイクロブーディンの間の部分(インターブーディン)の両側の形態はミクロンスケールで判別が可能である。この方法は破断面の形状を理解するのに有効であることがわかった。 (2)大理石中でのマイクロブーディン構造の破断面は、方解石を溶解することでレーザー顕微鏡により観察が可能である。方解石の溶解には塩酸を用いるのが定番であるが、本研究では塩酸に代わって、草津温泉の万代鉱(pHが2以下の強酸性)を用いることを試みた。万代鉱でも方解石を簡便に溶解させることができた。この方法により実際に角閃石のマイクロブーディン破断面をレーザー顕微鏡で観察し、表面構造のデータを収集しつつある。現状はケーススタディーの状況であり、観察データを増やす段階である。 (3)ペリドタイト中の破断面の研究は野外調査が出来ないために停滞している。適切な試料が入手できていない。 (4)鉱物粒子が塑性変形が受けた場合に、その長軸の配列が集中化してくる様子をMarchモデルとJefferyモデルを用いてシミュレーションを行った。その結果、もしも変形前に完全にランダムに配列している粒子群の場合には、配列の集中の仕方は変形モード(単純剪断、純粋剪断、あるいはその両方の混合変形)には依存せず、歪楕円の扁平度だけで記述できることがわかった。その際の変形量の記述には、従来広く使われている公称歪は不適で、対数歪の方が適していることが、改めて明瞭になった。
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今後の研究の推進方策 |
・フィールドにいつから行けるかが分からない現状なので、室内作業を中心に以下の方策を立てた。 破断面を、高性能顕微鏡を使って観察する方法は、現状では完璧ではないが、問題が明確になったので対処が可能である。FIB–SEMを使用する方法では、多数の画像を立体的に把握する画像ソフトを利用することで解決が可能であると思われる。また、万代鉱を使って方解石を溶解する方法では、クエン酸と併用することで、おそらく破断面を直接観察できると考える。 ・破断面の直接観察以外の方法で本研究の推進を図ることが可能である。これについては以下の通りである。 (1)長柱状鉱物の結晶方位の統計分布の記述の仕方の再検討を行う。従来はvon Mises 分布を使って記述しているが、分布の非対称性に関しては記述できないので、なにがしかの工夫が必要となる。試みにInverse Batchelet 分布の利用可能性について検討する。MarchモデルとJefferyモデルを用いて変形中の回転を定量化するシミュレーションは鉱物の配列と歪の関係を推測するのに有望であると思われるので、von Mises 分布を導入し鉱物配列集中度を記述する方向の研究を推進する。 (2)長柱状鉱物の結晶の形態(大きさと縦横比)の記述の再検討を行う。従来は対数正規分布で記述している。この方法が妥当かどうかを調べる。特に縦横比の分布を対数正規分布で記述できるかどうか、が鍵となる。 (3)破断面の記述の定量化を試みる。表面の凹凸を数値化し、計算ソフトMathematica を利用してその凹凸をウェーブレットを用いて解析できる道筋を模索する。処理情報量の限界に関して、検討する必要に迫られる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID19)の影響で、予定していた現地調査・サンプリングが出来なくなった。令和3年度にもサンプリングが行けるかどうか微妙な状況である。そこで、以下のような柔軟な計画を立てた。 (1)現地調査・サンプリングが行えるような状況になった場合には、当初予定していたペリドタイトのサンプリングを主目的とした野外調査を行う。経費は主として旅費に充てる。 (2)コロナ禍が収まらない場合には、デスクワークを行う。経費は消耗品(主としてデータ整理用のファイル等の文具類)に充てる。
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