研究実績の概要 |
阿蘇5の準備過程を知るには,珪長質マグマ溜りの成長過程を知ることが重要である.マグマ供給系の物理化学条件の変化を知るために,阿蘇4巨大噴火以降の珪長質マグマの活動,すなわち阿蘇中央火口丘第1~第6軽石(ACP1~6)に焦点を当てた.今年度は第1~第4軽石(ACP1~4)の全岩分析,鉱物分析,鉱物に含まれるメルト包有物の分析を行い,米塚,中岳等,完新世の玄武岩マグマの供給系との比較を行った.分析した軽石の組成・給源は,ACP1:黒雲母複輝石デイサイト,不明,ACP2:複輝石デイサイト,草千里ヶ浜火口,ACP3:黒雲母複輝石流紋岩,高野尾羽根,ACP4:複輝石デイサイト,立野溶岩火口である.またACP3/4間に給源不明のかんらん石,両輝石を含むスコリアを発見した. これらの軽石,スコリアに含まれるメルト包有物の分析をしたところ,組成が狭い範囲に集中するもの,直線的トレンドを示すもの,広くばらつくものの3つのパターンが認められた.ACP1はSiO2=60~70 wt.%の範囲で組成が大きくばらつき,K2O含有量が他のものより高かった.ACP2, 3, 4はSiO2=70~75 wt.%の中で,狭い組成範囲に集中し,それぞれK2Oレベルが異なった.ACP3/4はSiO2=50~65 wt.%で直線的なトレンドを描き,完新世のスコリアの組成パターンに似るが,K2Oレベルが少し低い.大規模噴火を起こした阿蘇4マグマは,いくつかの組成のマグマの混合パターンを示し,層状で各層が均質なマグマ溜りの存在が推定できる.現在の中央火口丘群の活動を見ると,ACP4,3,2では均質なマグマ溜りの成長が認められるが,その後,火道が北に移動しACP1で幅広い組成の混合マグマを「吸い出した」後に,完新世の玄武岩マグマの活動に移行した.ある程度の規模の珪長質マグマ溜りは4千年前以降発達していないと思われる.
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