研究課題/領域番号 |
17K05693
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
生形 貴男 京都大学, 理学研究科, 教授 (00293598)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | アンモノイド / オウムガイ / 機能形態 / 静水力学 / 流体力学 / トレードオフ / パレート最適 |
研究実績の概要 |
前年度の研究で,アンモノイド類では殻の比重が大きくなり過ぎないことがある程度重要だったという結果が得られたが,今年度は,静水力学的形状特性に加えて,遊泳時に海水から受ける形状抵抗に関する流体力学的形状特性についても,進行方向への殻の投影面積に基づいて評価した.静水力学的形状特性(浮力特性)を単位表面積当たりの殻体積で,流体力学的形状特性(遊泳特性)を単位投影面積当たりの殻体積で評価し,Raupの理論形態モデルを使って様々な殻形状についてこれらを計算した結果,両者の間にトレードオフの関係が成立し,どちらかを犠牲にしなければ片方の機能特性を向上させられないようなパレートフロントが存在することがわかった.そこで,6000種以上のアンモノイドと700種以上のオウムガイ類について,文献等に図示されている写真からRaupの理論形態パラメータの値を計測し,そこから浮力特性と遊泳特性を近似的に見積もった.その結果,オウムガイ類,古生代のアンモノイドであるプロレカニテス類,中生代のアンモノイドのフィロセラス類では,ほとんどの種がパレート最適に近い形状であることがわかった.プロレカニテス類が遊泳特性に特化した形状を有する一方で,オウムガイ類では反対に浮力特性に特化した殻形状のものが支配的であった.フィロセラス類にはその中間的な形状が多かった.一方,古生代のアンモノイドであるゴニアタイト類とクリメニア類では,パレート最適から遠い殻形状の種の割合が特に多かったが,ゴニアタイト類ではやや浮力特性寄り,クリメニア類ではやや遊泳特性寄りの形状が多い傾向も見られた.また,アンモノイドやオウムガイ類とは異なる系統の外殻性頭足類であるタルフィセラス類数十種についても同様の解析を行った結果,タルフィセラス類は浮力特性と遊泳特性のいずれも劣るような殻形状をしていたことがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,2年目以降には,1)多数の種からの計測データの蓄積,2)殻強度からみた機能特性の評価,3)形状毎に算出された機能特性値に基づく機能地形の構築と機能-形態空間解析を行う予定であった.これらに加えて,1年目の結果を受けて,4)遊泳の際の流体力学的形状特性の評価も必要であると考えられた.今年度は,2)については着手していないが,1)については,文献に図示されている写真を用いることで,デボン紀から白亜紀までのほとんど系統のアンモノイドについてデータを集めた.当初計画していた比表面積に基づく浮力特性に加え,4)の遊泳特性についても,全測定対象種について見積もり,これら二つの特性ついてはそれぞれ3)の機能地形を構築することができた.また,当初予定していなかったオウムガイ類についてもまとまったデータを得た結果,オウムガイ類がアンモノイドに比べてより浮力特性に特化した殻形状を進化させたことがわかった.さらに,オウムガイ類とアンモノイドのいくつかの系統で,地質時代とともにパレート最適に近い形状のものが増加する傾向があることもわかった.これら二つの特性のトレードオフが作るパレート最適だけではアンモノイドの形態的多様性を十分説明できないものの,それら特性の分布の系統特異性や時代的変化傾向が一部で検出されたことは興味深い成果であるといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
殻を浮力器官として遊泳性ないしは遊泳底生の生活を送る外殻性頭足類にとって,比重を大きくしないことや遊泳時に海水から受ける形状抵抗を小さくすること以外にも,海水中での殻のバランスも重要であると考えられる.現生頭足類では,漏斗から噴射する水流によって移動するが,オウムガイのような平巻外殻性の種では,この水流によって殻が搖動するロッキング運動が知られている.ロッキング運動が大きいほど遊泳時の姿勢は不安定になるが,ロッキング運動の程度は殻形状に依存すると考えられる.次年度は,この観点からの機能特性を評価し,浮力特性と遊泳特性では説明できない殻形状をこの観点からどの程度説明できるか検討する.また,浮力特性と殻強度との相反関係が作るパレートフロントがアンモノイドの進化形態学において重要かどうかを検討するために,外形から見積もられる比表面積と殻断面で見積もられる相対殻厚の関係を種内変異や個体発生変異において検討し,両者の間に負の相関がみられるかどうか検討したい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度は当初二つの国際会議に参加予定であったが,学内業務と開催時期との関係でそのうちの一つに参加できなかったことが主要な理由である。 (使用計画) 中国と日本を中心にしてアジア古生物学協会が立ち上がり,次年度に第一回の会議が開催されることが急遽決定したので,これに参加して成果発表を行う予定である。
|