現生オウムガイは,遊泳の際に漏斗状の器官から水流を噴出して推進力を得るが,その際に殻に若干の回転運動が発生し,搖動する。この搖動は,アンモノイドなどの外殻性頭足類にとって,遊泳能力に大きく影響すると考えられる。そこで,殻形状と搖動のしやすさの一般的な関係を明らかにするために,理論形態モデルを用いた機能-形態空間解析を行った。まず,様々な形状のモデルについて,中立浮力を仮定して,軟体部が入っている体房の体積比を計算し,海水中での姿勢を求めた。漏斗の位置を殻の腹縁に定め,先行研究の測定結果を参考に推力係数を与え,浮心と重心の中点まわりの力のモーメントの釣り合いから,搖動の回転角を計算した。同時に,浮心と重心との距離を殻体積で基準化した値を姿勢の安定性として求た。螺環拡大率,臍の広さ,螺環の太さ,殻の厚さの四つのパラメータの値を振って,生息姿勢,搖動の回転角,姿勢の安定性を評価した結果,螺環拡大率が小さい蜜巻のものでは,殻が薄いと,形状や殻の厚さの変化によって搖動の回転角が大きく変わることが分かった。また,やや下向きの姿勢のときに搖動の回転角が大きく,姿勢も不安定になりやすいことが分かった。また,殻が薄くて臍が小さいか螺環が太い場合,あるいは殻が厚くて巻が緩い場合に,姿勢が不安定になり,搖動の回転角の絶対値が大きくなることがわかった。そこで,8目62種のアンモノイドの実標本から螺環拡大率,臍の広さ,螺環の太さ,殻の厚さを実測し,モデルを使って搖動の回転角を求めた結果,多くの種では±0.05 radの範囲に収まったが,古生代に大繁栄を遂げたゴニアタイト類の中には,搖動の回転角の絶対値が大きなものが少なからず見られた。この結果は,ゴニアタイト類の一部に遊泳能力が顕著に低い種がいたことを示唆する。
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