研究課題/領域番号 |
17K05694
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
萩野 恭子 高知大学, その他部局等, 客員講師 (90374206)
|
研究分担者 |
富岡 尚敬 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 主任技術研究員 (30335418)
若木 重行 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 技術研究員 (50548188)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 石灰質ナノ化石 / 円石藻 / バイオミネラリゼーション / 微化石 / 古海洋環境 |
研究実績の概要 |
円石藻Braarudosphaera bigelowii の石灰質鱗片と現場海水の微量元素組成の関係を調べるため、長崎県古江湾(1回)、鳥取県泊港(4回)、高知県春野漁港(24回)、高知県池の浦漁港(2回)、青森県関根浜(2回)、北海道小樽市小樽築港(1回)、北海道小樽市祝津漁港(1回)から海水試料を取得した。サンプリングのタイミングをつかむのが難しく、石灰化した個体が見つかったのは、春野漁港で2回、池の浦漁港で1回にとどまったが、長崎県古江湾の海水から、Braarudosphaera bigelowii seusu stricto の状態の良い非石灰化・遊泳細胞をみつけ、その培養株の確立に成功した。さらに、培養環境下において株の石灰化に複数回成功した。 確立したB. bigelowii の株の分子系統解析を行い、株が18S rDNA Genotype Iであること、窒素固定細菌UCYN-A2 を内包することを確認した。また、その株によって形成された石灰質鱗片の溶解実験を行った結果、鱗片の裏側に、石灰化に直接的に関与すると考えられている、酸に不溶な有機質の膜状の構造物があることを確認した。FIB を用いて石灰質鱗片の切片を作成してTEM観察を行った結果、その膜状の構造が石灰質鱗片の内部にまで入り込んでいることを確認した。 化石のB. bigelowii の研究のため、「ちきゅう」の完熟航海で採取された、C9001C コアより堆積物の試料を120個を採取して、各堆積物試料からのスメアスライドを作成した。現在は、スメアスライドの偏光顕微鏡観察に基づいて、堆積物中のB. bigelowii 化石の相対比と大きさの変遷を調べているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、B. bigelowii は培養が不可能で、かつ、研究室内環境での石灰化の見通しが立たないという前提のもとで、自然環境から得られた試料のみを用いて実験をする予定であった。具体的には、B. bigelowii が石灰化を行われている瞬間の海水を取得して、その石灰質鱗片の微量元素組成と海水環境との関連を調べ、得られた関係式を新たな古海洋環境指標として使用することを目的としていた。しかしながら、B. biglowii が石灰化する瞬間に海水を採るということが想定以上に困難で、今年度も十分な個体数の石灰化細胞の入手は出来なかった。その一方で今年度は、予期せずB. bigelowii の培養株の確立とその石灰化に成功した。その結果として、予測が難しい現場環境での石灰化細胞の採取ではなく、環境をコントロールした研究室内で生じた石灰質鱗片の研究に道が開けた。当初の予定とは違うが、これは研究目的遂行のためによりよい結果である。ただし、現時点では数ミリリットル 程度の少量の培養液で細胞を管理しているうえに、石灰化するのは一部の細胞にとどまっているため、分析に十分な個体数の石灰質鱗片はまだ得られていないので、その点の改善が必要である。また、株は長崎県から採取された細胞に由来するものだけで、個体差が殻の微量元素組成に与える影響が考慮できないという問題が残っている。 化石試料の研究は、「ちきゅう」によって青森県下北半島沖より採取された、第四紀のC9001CコアにおけるB. bigelowii の形態観察と個体数のチェックを、順次進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は(1)現場海水の微量元素組成並びに、そこで石灰化している自然環境のB. bigelowii 個体の石灰質鱗片の科学組成の分析、(2)昨年度に確立した培養株との比較のための、他の産地に由来する新しいB. bigelowii 培養株の確立、(3)大量培養の実施と、培養環境下で形成された石灰質鱗片と培養液の微量元素組成の関係の解明と、その関係式の確立、(4)現生・培養試料から得られた関係式の、化石B.bigelowii 試料の微量元素分析の結果への応用、を行う。 異なった個体に由来する複数の株によって形成される石灰質鱗片の微量元素組成を比べることにより、微量元素組成に石灰化を行った個体による違いがあるのかどうか、またその違いがどの程度なのかを、調べることが出来る。そして、培養実験ならびに現場試料分析の結果に基づいた、微量元素組成と石灰化環境の換算式を確立することによって、沿岸の古海洋環境の復元にパワフルかつ信頼性の高い新たな環境復元のツールを手に入れることが出来る。そして、実際に、下北半島沖から得られた堆積物中のB. bigelowii 化石の分析結果と、先行研究で明らかになっている同じ堆積物試料中の有孔虫化石の酸素同位体比(既に公開されているデータ)を比較し、B. bigelowii 化石の微量元素の古海洋環境指標としての実用性を立証する論文執筆を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究費はおおむね予定通り使用したが、消耗品を割引価格で購入したときの残りとして1658円が余った。残額は来年度の消耗品購入に使用する予定である。
|