前年度までの成果として、珪藻の大型化と同調的な水深の増大は認められなかった。すなわち、殻直径の最大値の増大が掘削深度31mから32mに認められ、それ以降も大型個体の相対的な産出頻度に変動が認められることが明らかにされた一方で琵琶湖における過去の水深の指標となると考えられてきた水酸化物相におけるヒ素含有量には、珪藻の大型化と同時期の水深の増大は認められず、集水域から供給されるヒ素が一定であることを仮定すれば、より古い時代に水深の増大があったことが示唆された。湖盆および集水域の地形と水収支を加味した水深の変化の時期は、珪藻の大型化とは必ずしも一致しない。現在の琵琶湖において珪藻類の増殖は全層循環期に活発であり、珪藻の大型化とより直接的に関係があるのは、水温の鉛直分布の周年変化である可能性が高い。そのため、全層循環の期間を推定するか、逆に、温度躍層の水深とそれが維持される期間を明らかにする必要があると指摘される。 一方で、珪藻の個体サイズ分布(大型個体の相対的な産出頻度)に変動が認められることは事実であり、引き続き珪藻化石を観察してその大きさを測定しデータを蓄積することを継続した。これらのデータは、今後、珪藻の個体サイズ分布の変動要因(たとえば全層循環の期間や温度躍層の水深)の解明に取り組む際に活用される。また、将来の研究に資するために、本研究に使用した試料8689点を整理して国立科学博物館の標本として登録した。また、湖沼堆積物から古水深を明らかにする手法が十分ではない現状を踏まえ、温度躍層の指標や新たな古水深指標の探索のために地球化学的な実験を行なった。
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