研究課題/領域番号 |
17K05696
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
土屋 正史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 技術研究員 (00435835)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 層位・古生物学 / 系統進化 / 海洋生態 / 古環境変遷 / 底生有孔虫 / 同位体生態 / 分子系統学 |
研究実績の概要 |
本研究では,日本沿岸に生息する岩礁地性底生有孔虫を対象とし,特に,日本海の閉鎖といった地理的隔離の影響に加え,内生生物の生態的な要因が遺伝的集団の形成やその地理的分布の形成に寄与したことを,1)分子系統地理学的視点(宿主と内生生物の遺伝的多様性),2)生態学的視点(宿主や内生生物の環境応答),3)同位体生態学的視点(宿主の餌資源利用形態)から明らかにし,生態学的要因と地球科学的要因を統合することで,有孔虫の遺伝的分化機構を明らかにするものである。29年度は,日本列島沿岸に生息する二種の岩礁地性底生有孔虫(Elphidium crispumおよびPararotalia nipponica)について,A)宿主有孔虫の分子系統地理学的解析を中心に解析を行うとともに,一部の試料について,内生生物の遺伝的多様性解析を予察的に行った(研究内容1に関連)。地域集団の識別は,E. crispumの場合は核のSSU rRNA遺伝子が有効であり,P. nipponicaでは,リボソーム遺伝子のスペーサー領域であるITSが有効であった。これらの遺伝子領域を用いて解析したところ,これまで予察的に得られていた両種の遺伝的分化パターンの違いが,明らかに異なることが明確化できてきた。また,内生生物の葉緑体16S rRNA遺伝子領域の解析では,異なる環境に生息する珪藻種(やそれに由来する葉緑体)をそれぞれ持つことが明らかになってきた。また,B)宿主の餌資源利用形態の違いをアミノ酸窒素同位体比分析および栄養段階推定から明らかにし,TEMによる細胞内の微細構造観察および内生生物の遺伝子同定の結果と併せて,微小生息空間内の餌資源利用形態の違いを見いだすとともに,上述の2種間の資源利用形態が大きく異なることを示すことができた。Bについては,結果を取り纏め査読雑誌に修正原稿を投稿した(研究内容2に関連)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,当初目標を2項目(天然試料を用いた群集解析から宿主有孔虫の環境耐性(特に塩分耐性)を見出すこと,有孔虫2種の分子系統地理学的解析)を設定し,各項目の分析を目標とした。研究の当初計画では,天然試料の群集解析を行い,現在の海洋環境における塩分勾配から,上記2種の塩分耐性が宿主だけではなく,細胞内微細藻類の獲得に影響を及ぼすと推測したため,この試料を採取し,群集解析を行うことを想定していた。しかし,予定していた期間に荒天となるなど,試料の採取が困難であった。このため,31年度に行う予定にしていたアミノ酸窒素同位体比分析に基づく栄養段階推定と微小生息空間内における餌資源利用形態の解析を進めた。当初計画通りに進まない面もあったが,前倒して分析することで論文投稿(現在修正原稿を投稿済み)に至るなど大きな進展があり,当初目標を十分に達成できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に行った分子系統地理学的解析により,E. crispumとP. nipponicaの遺伝的分化パターンを見出だすことができたが,1)異なる遺伝的分化パターンは,分析数を増やしても同じようなパターンを示し,一般性があるのか,2)どのくらいの規模の遺伝的集団を形成し,種間でその規模が異なるか,3)細胞内の微細藻類の遺伝的多様性がどの程度存在するか,4)細胞内の微細藻類には種特異性はあるのか,緯度方向で獲得する珪藻種に違いはあるのか,などについては明らかではない。また,本研究では内生微細藻類の環境耐性が宿主の生存に影響を及ぼしたかも対象としているため,5)現在の環境下で塩分の違いによる分布の違いが2種で見出だされるか,を確認する必要がある。これらの問題を克服するために,平成30年度は,有孔虫の分子系統地理学的解析を継続するとともに,詳細な細胞内微細藻類の遺伝的多様性解析についても着手する。さらに,自然環境下での塩分勾配が恒常的に存在している環境から試料を採取し,群集組成を比較し,2種の塩分耐性に違いがあるかを確認する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度末に同位体生態学的解析のデータを論文として取り纏め投稿した。この際,英文校閲を依頼したが,校閲費は単語数に依存するため,ある程度余裕を持たせて予算を執行せざるを得なかったため未使用額が生じた。平成30年度も消耗品や試薬等の購入について,予算を計画通りに利用する予定であるが,請求額が変動するような校閲などは,年度末には依頼しないような計画としたい。
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