研究課題/領域番号 |
17K05697
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
野牧 秀隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 主任研究員 (90435834)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 貧酸素 / 底生有孔虫 / 細胞質立体構造 / マイクロX線CT |
研究実績の概要 |
有孔虫の生息環境、特に呼吸に用いる酸素、硝酸塩の濃度と、貧酸素環境で細胞内に硝酸塩をためこむための液胞などの細胞小器官との関わりを明らかにするため、今年度は、アリューシャン列島沖ベーリング海底谷の深海底およびスウェーデンのフィヨルドで採取した有孔虫種についてマイクロフォーカスX線CT解析を行った。採取した表層堆積物の一部をグルタールアルデヒドで固定し、拾い出した有孔虫個体に導電染色を施し、樹脂包埋した後にX線の減衰が均質になるよう樹脂のトリミングを行い、高知大学の所有するX線CTで細胞質の立体構造を観察した。フィヨルド内で採取されたGlobobulimina属の2種は、同属である相模湾のGlobobulimina affinisとほぼ同様の細胞構造を見せ、細胞構造が、属レベルでは似通っていることを示唆した。一方、フィヨルドの2種では、石灰質殻の周りに薄く堆積物で覆ったシストを特徴的に保持していた。これらの個体について、樹脂包埋個体から超薄切片を作成して透過型電子顕微鏡で観察した結果、シストのすぐ内側に、2-3層になった泡状の細胞質が存在していた。石灰質殻の周りにこれらの泡状細胞質を展開し、薄く堆積物で覆うことで、環境とのバッファーなどに利用している可能性がある。 また、細胞内に硝酸塩をため込まず、硝酸塩呼吸も行っていないChilostomella ovoideaについて、細胞内に特徴的にみられる円弧状の構造の立体構造を解明するために、樹脂包埋した個体の連続切片作成と観察、トレース、立体構造再構築を行った。予察的な解析の結果、この構造は瓦状にたわんだ板状の構造をしていること、初室側、また細胞の縁辺部では、構造がさらに収縮し葉巻状に丸まった状態に変化することがわかった。この構造沿いに細胞質を展開していることとあわせ、現在その機能などを考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
サンプリング、環境計測、室内飼育実験、マイクロフォーカスX線CTによる観察、TEM観察など、研究目的達成のために必要な研究項目を順調にこなすとともに、種によって異なるさまざまな細胞構造の様子を見出している。また、同位体培養実験の結果についても、研究協力者と共に論文執筆のための準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
フィヨルドのGlobobulimina属の一部に見られた、石灰質殻外の泡状構造について、これらの個体の硝酸塩濃度の分析や、これらの個体の出現と堆積物中の環境との関連を調べ、その機能を推定する。また、Chilostomellaで見られた板状、葉巻状の構造についてその構成成分を調べるとともに、細胞質との関連を詳細に観察し、その機能を推定する。これら、種ごとに大きく異なる有孔虫の細胞立体構造についてその普遍性、特殊性をまとめ上げ、有孔虫の貧酸素適応におけるフレキシブルな細胞立体構造の変容を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、X線CTで得られる大量の画像データの保存用に高容量HDDなどを複数購入する予定であったが、撮影画像データのトリミング、圧縮などを効果的に行う手法を習得したことで、比較的安価な製品1台での購入に抑えた。最終年度に得られた成果論文の投稿費用、オープンアクセス費などに充てる。
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