四肢動物において、首は頭部の可動性を確保し、運動様式の多様化を可能にする重要な関節である。四肢動物の系統を俯瞰すると、頭部と首の接合部である後頭顆の関節は、1点関節と2点関節のものに大きく分けられる。これらの関節タイプの違いは、「後頭部」と「首」の回転軸の位置や、向きの違いを反映していると予想される。そこで、両関節の機能的な特性を明らかにすることは、四肢動物の首の形態進化と運動様式の変遷を辿る糸口となると期待される。本研究では、現生四肢動物(鳥類、爬虫類、哺乳類、平滑両生類)の遺骸を用いて、両関節タイプにおける可動範囲の特性を検証した。その手順は以下の通りである。 1)遺骸の頭部を異なる5つの姿勢(水平、上、下、横、ひねり)に固定し、μCTで撮像し、立体構築を行う. 2)それぞれの姿勢について、後頭顆に対する頚椎の可動範囲をオイラー角で求める 3)CT撮像に用いた遺骸を解剖し、首の筋の配置を確認することで、可動性の制限要因を調べる。 解析の結果、2点関節(平滑両生類、哺乳類)は上下方向に卓越し、1点関節(爬虫類、鳥類)は上下方向とひねりが卓越することが明らかになった。1点関節については、関節の形態が球状であることから、3軸回転を予想していたが、実際には2軸回転に限定されていることが明らかになった。両関節タイプとも、左右方向の運動は制限されている点で共通する。それぞれの首関節の可動性を制限している要因は、関節面の曲率や頚椎の形態など複数挙げられるが、中でも重要なのが、首の筋の配置である。首の回転中心(後頭顆)から首の筋の付着点までの距離が遠いほど筋肉のテコが大きくなり、関節の可動性を抑制すると考えられる。本研究において2点関節である哺乳類は、爬虫類と比べ回転中心から離れたところに筋が配置されていることが確認された事から、これが「ひねり」を制限する一因である可能性を示唆した。
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