小天体や隕石の衝突,それに起因する月や大気の形成など,動的圧縮に関連する現象は少なくない.しかし,これまでに物質が衝撃によってリアルタイムに構造変化する様子を観察することが困難であったため,我々は未だに衝撃下での真の物質の挙動を理解するまでには至っていない.そこで,本研究では,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設Photon Factory Advanced Ring(PF-AR)において,放射光時間分解X線回折法とレーザー衝撃圧縮法を用いて,衝撃圧縮下での物質の結晶構造変化をその場観察する実験を行った. 本研究では,苦鉄質岩に含まれる酸化ジルコニウム(ジルコニア)鉱物のbaddeleyiteに着目し,その衝撃下での挙動解明を目標に実験を実施した.実験は,レーザー衝撃圧縮によって15 GPaのピーク衝撃圧を試料に加え,その衝撃下での結晶構造変化を放射光時間分解X線回折法を用いて数ナノ秒間隔で追跡した.実験の結果,衝撃圧縮直後の6.5ナノ秒にbaddeleyiteは高圧相である直方晶相Iに相転移し,その後,圧縮波が通過すると直ちに低圧相の単斜晶相に戻った.このときの相転移圧力は3.3 GPaと見積もられた.この時の単斜晶相-直方晶相Iの相転移圧力は,静的圧縮場で観察される圧力とほぼ一致していた.baddeleyiteの単斜晶相から直方晶相Iへの相転移は原子移動が小さい変位型相転移であることが,baddeleyiteが歪み速度に依存せずに低圧相から高圧相に相転移している要因であると考えられた.本研究により,衝撃圧縮でも静的圧縮と同程度の圧縮で相転移することが確認されたが,baddeleyiteは少なくとも15GPaまで直方晶相Iの構造を維持し,さらに高圧相である直方晶相IIは観察されなかった.本研究の結果は,baddeleyiteから隕石衝突の記録を読み取る上で重要な情報となるだろう.
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