研究課題/領域番号 |
17K05703
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
戸丸 仁 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80588244)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヨウ素 / 放射性ヨウ素同位体 / 地下水 |
研究実績の概要 |
平成29年度は千葉県、沖縄県で地下水(温泉水)を中心とした流体試料を採取し、その主要イオン濃度(硫酸イオン、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン)、ヨウ化物イオン濃度、臭化物イオン濃度、酸素・水素同位体組成比、溶存ガス組成(メタン、エタン、プロパン)を分析した。また、メキシコ湾のガスハイドレート胚胎域、アメリカ・オクラホマ州から採取された流体試料のヨウ化物イオン濃度、臭化物イオン濃度を測定した。これらの試料のうち、国内の試料でヨウ素濃度が高く、試料量も十分あるものについては放射性ヨウ素同位体比(129I/127I)を測定した。 千葉県の高濃度のヨウ素を含む地下水は、放射性ヨウ素同位体比を用いた年代に大きな差はなく大部分が海水起源であるが、その後の移動や天水、年代や起源の異なる古海水との混合割合などが異なり、地下水の発達過程が複数存在することが確認された。つまり、海洋の有機物にヨウ素を蓄積しやすい環境がある程度継続したのち、その時に堆積した有機物が分解して地下水中にヨウ素が放出されたが、地下水の移動経路や胚胎層準の違いによって、濃度に反映されるような成分が変化したものと考えられる。 沖縄県の地下水も千葉県同様に海水起源であったが、天水による希釈や炭酸塩と考えられる岩石との反応を経ている試料が多かった。しかし、千葉県の試料も沖縄県の試料もヨウ化物イオンと臭化物イオンの濃度比が近く、水深やヨウ素を蓄積した有機物の種類などが近い環境であったことが示唆される。放射性ヨウ素同位体比からは、特に沖縄島南部に古く、他の地下水との混合が小さい地下水が卓越していることが明らかになった。南部は地下水のメタンガス含有量も他地域に比べてると高く、沖縄県の調査地域では北~中部と南部で地下水の起源や移動が大きく異なることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で使用を予定していた、イランで採取された試料は、輸送手続きが煩雑で平成29年度中に入手できなかった。引き続き輸送等に関して情報を収集する。千葉県、沖縄県ともに採取予定だった試料の8割強を採取、分析し、調査と分析に関してはほぼ予定通り遂行できた。ただし、調査の途中で新たに分布がわかった地下水試料もあるため、引き続き情報収集を続け、必要に応じて追加で試料採取を行う予定である。 試料の分析に関しては、主要イオンやハロゲン、放射性ヨウ素同位体比は計画通りの数、精度で分析できており、千葉県と沖縄県でそれぞれのヨウ素の移動と集積に関して、一定レベルのモデル化を進めることができた。これらは2017年12月にアメリカで開催されたAmerican Geophysical Union Fall Meetingで発表しており、研究の進んだ地域からその成果をまとめる、という当初の予定を達成した。 ヨウ素濃度が低い試料に関しては濃縮カラムを用いた処理を研究計画当初から検討していたが、実際に試験を行うには至っておらず、平成30年度に早急に進めるべき課題である。
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今後の研究の推進方策 |
北海道には日高褶曲帯の周辺部に高濃度のヨウ素を含む温泉水や湧水が報告されている。また、南部には泥火山として有機物を含む泥とともに供給されたヨウ素に富む流体も分布しており、堆積物深部からヨウ素が地質構造(活動)によって自発的に地表に供給されている。これらの地域では、起原層だけでなく移動経路が異なるヨウ素を、比較的狭い範囲から採取することが可能であり、より小規模で年代が異なるヨウ素の濃集環境を比較可能である。したがって、平成30年度は北海道で平成29年度と同様に試料採取を行い、有機物やメタンに富んだ地下水(温泉水)の化学組成と放射性ヨウ素同位体比を測定する。ヨウ素濃度が低い試料に関しては、放射性ヨウ素同位体比測定の前処理に濃縮カラムを用いた試料処理を行い、研究に使用する試料の数(種類)の確保に努める。 平成29年度に採取、入手した試料で放射性ヨウ素同位体比が未測定なものに関しても、必要であれば濃縮カラム等を用いて、処理を行い、放射性ヨウ素同位体比を測定し、試料の地理的・時間的・環境的な多様性を確保する。 また、一部の試料に関しては、試料に含まれている有機物量とその安定炭素同位体比の測定を行い、有機物の堆積環境(海岸線からの距離、緯度など)を整理し、ヨウ素濃度・放射性ヨウ素同位体比と集積環境及びそのタイミングの関連性を、ヨウ素の起原となる有機物の堆積環境が異なる様々なタイプの試料から面的に解析する。
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