海洋有機物にはヨウ素が多く含まれるため、堆積した有機物が高温下でメタン等に分解する際、ヨウ素も堆積物中の間隙水に放出される。そのため、有機物やメタンに富んだ地下水にはヨウ素が濃集していることが多い。また、ヨウ素は安定同位体(127I)のほかに、天然環境では半減期が1570万年の放射性同位体(129I)がごく微量に存在する。129Iはヨウ素が有機物とともに堆積し、海洋から切り離されると減少するため、有機物堆積時の相対的な年代情報を保持している。本研究ではヨウ素のこれらの地球化学的特徴を利用した古環境・年代指標としての応用可能性を、北海道、千葉県、沖縄県(本島)から採取した地下水(温泉水)を中心に議論した。 どの地域の試料も、海水に比べて数倍から千倍以上ヨウ素(I/Cl比)に富んでいた。ヨウ素と同じハロゲンである臭素(Br/Cl比)は、沖縄県の試料は海水よりも低いものが大部分であり、沖縄県では相対的に臭素に比べてヨウ素の濃収率が高かった。ヨウ素は酸化的な環境で生成するヨウ素酸イオンが、炭酸塩中の炭酸イオンと置換することが報告されており、沖縄県本島に広がる石灰岩の続成作用によって、炭酸塩に取り込まれたヨウ素が、地下水中に放出されている可能性が示唆された。また、試料中のヨウ素量(濃度、試料量から算出)が十分であるものに対して、129I/127I比を測定した。北海道の試料は比較的深度の深い井戸から採取した地下水を中心に、300×10-15~700×10-15、特に500×10-15を超える比較的高い値が測定された。それに対し、沖縄県の試料は220×10-15、千葉県の試料は170×10-15~190×10-15程度の値であった。129I/127I比の違いを起源となった有機物の堆積年代の差とすると、これら3地域の中では千葉県が最も古いヨウ素の影響を強く受けていることが明らかになった。
|