研究課題/領域番号 |
17K05706
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
太田 努 岡山大学, 惑星物質研究所, 助手 (80379817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウム / 流体 / カンラン岩 / マントル / 二次イオン質量分析計 |
研究実績の概要 |
今年度は,岩石学的・地球化学的記載が行われた幌満カンラン岩体の試料コレクションを用いて,構成鉱物の記載と化学分析を重点的に行った. 幌満カンラン岩体には約十億年前の中央海嶺下での部分溶融とその後の海洋底熱水変質,約三億年前の中央海嶺下でのメルト交代作用,約五千万年前の沈み込み帯深部流体との交代作用が記録されているが,岩体中での位置や空間規模によって,後のイベントによる化学的改変の程度が異なる.そこでまず,約十億年前の部分溶融と熱水変質の記録を最もよく残している試料と,後の沈み込み帯流体との交代作用の影響が最も顕著な試料について,岩石薄片の観察および構成鉱物の化学組成分析を行った. 光学顕微鏡や電子顕微鏡(SEM)を用いた観察の後,電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて元素マッピングを行い,構成鉱物の組織的特徴やモード組成を調べた.その後,岩石薄片を1インチ径の円板状に加工,あるいは1インチ径の円板状研磨片を新たに作成して二次イオン質量分析計(SIMS)による微量元素組成分析を行った.水素濃度局所分析用の試料準備や標準物質の整備については,試料岩片や標準物質(サンカルロス産マントルゼノリスのカンラン石)を金属インジウムに包埋した試料を用意することを計画していたが,SEM観察やEPMA分析をした後の薄片試料を加工・包埋するよりも,標準物質を分析対象の岩石研磨片とともに1インチ径の円板状薄片に加工した方が簡便であったため,後者を分析に用いた. 現時点までの結果から,初期のイベントの特徴を保持している試料に比べて,沈み込み帯流体による交代作用の影響が顕著な試料では,全岩のリチウム同位体組成の変動とともに,元来リチウムに乏しい斜長石や希土類元素に乏しい斜方輝石のリチウムや軽希土類元素の濃度が高くなっていることがわかったが,水素濃度に関しては明瞭な違いは認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度扱った試料については,予察的に高分解能SIMSを用いたリチウム同位体分析を行っていたので,一部の試料については多元素・リチウム同位体のデータセットが揃ったが,多元素二次元マップの完成には至っていない.これまでに行ってきた観察および分析の結果をふまえて,次年度以降に改めて同位体分析を行い,岩石薄片規模の多元素二次元マップを完成させる必要がある.また,今年度は代表的な試料の特徴を把握する段階までしか作業が完了していないので,その他の試料についても観察および分析を進めて,試料間における差異などにも注目した解析を行う. 水素濃度局所分析用の試料準備や標準物質の整備については,実質的な検出限界や分析精度の評価,分析条件の最適化までには至っていない.このため,幌満カンラン岩試料における分析結果に,期待された試料間の差異が明瞭に現れなかったのが,分析精度の如何によるのかどうか判断できない.今後の分析を通じて,分析方法の最適化を進める.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがって,幌満カンラン岩類の岩石記載・化学分析を行い,結果の解析・総括を進める. 幌満カンラン岩は中央海嶺下での部分溶融を経験した溶け残りマントルであるが,典型的溶け残りマントルの十倍以上もの水を含むものもある.このことは,鉱物内部や粒間に微細な流体包有物や副次的な含水鉱物が存在する可能性を示唆している.そこで,それらの分布や存在量を精度良く見積もるために,一つの露頭から複数採取してある試料について,それぞれの岩石試料からさらに複数の薄片を作成する.各薄片について,光学顕微鏡および電子顕微鏡による組織観察,電子線マイクロアナライザによる主要元素組成分析を行い,次いで汎用SIMSによるリチウム・水素などの微量元素分析,高分解能SIMSによるリチウム同位体分析を行う.一連の分析を通じて,微細包有物や含水鉱物の分布や存在度の不均質の程度を評価する.この行程を踏まえて,岩体規模,露頭規模,岩石薄片規模における水流体の存在量や分布様式を明らかにし,リチウムの同位体平衡がどの程度達成されていたのか,あるいはどのように非平衡が保持されているのかを解析する. 水素濃度局所分析用標準物質については,サンカルロス産以外のカンラン石や,輝石類についても候補を選定し,SIMS分析に適用できるよう整備を継続する. 次年度の研究費は,全て物品費に当てる計画であった.当初の予定にしたがい,岩石試料の化学分析やその準備のための消耗品費に当てる.
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