研究課題/領域番号 |
17K05710
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
磯部 博志 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80311869)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微小隕石 / 硫化鉄 / 磁鉄鉱 / リキダス相 / 樹枝状結晶 / I type cosmic spherule |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,雰囲気制御ケラマックス縦型管状炉をを用いて微粒子試料の落下・溶融実験を行った。本年度は,硫化鉄を主成分とする粒子を用いて,最高到達温度1600℃とし,酸素分圧条件として現在の地球高層大気を代表する,FMQ-0.5,+0.9,+2.4 log unit での一連の実験を行った。出発物質として用いた粒子は純粋なFeS(troilite)相ではなく,酸化鉄及び金属鉄相を不均質に含んでいる。 実験生成物粒子のほとんどは,完全な溶融状態を経たことを示す外形を示し,表面には酸化鉄殻が形成していた。出発物質粒子の組成不均質および酸化の進行により,酸化鉄に富む組成となった粒子は,粒子全体にわたって一定方位の磁鉄鉱結晶が格子状構造体を作っているものがみられる。また,粒子表面に放射状の樹枝状構造を持つ磁鉄鉱結晶が存在するものもある。粒子内部の構造を観察した結果,メルトからリキダス相として磁鉄鉱の樹枝状急冷結晶が成長した粒子では,結晶粒間のメルト相は硫黄に富む組成を示す。 一方,相対的に硫黄に富む組成を持つ粒子の内部では,メルトからの晶出相として硫化鉄の樹枝状急冷結晶が成長しているものが見られた。硫化鉄結晶が成長している粒子では,結晶粒間メルト組成は硫黄に乏しく,酸化鉄成分に富んでいる。従って,酸素分圧が低く,還元条件のために酸化が抑制される条件においては,粒子組成が全体としては硫黄に富むにもかかわらず硫黄の揮発が抑制され,リキダス相として磁鉄鉱結晶が晶出する組成まで酸化が進んだ場合は,硫黄の揮発が促進されると考えられる。 これらの成果は,国際学会を含む複数の学会発表として公表すると共に,論文投稿の準備を進めている。また,共同研究者と共に進めているコンドリュール形成過程における揮発・凝縮過程の再現実験について,本研究課題との関連を含む発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね,本研究課題の主要テーマである硫化鉄粒子の加熱・急冷を伴う酸化・揮発過程に関する30年度実施計画に沿って実験を実施した。硫化鉄粒子を用いた実験の結果,酸化および硫黄揮発の進行度によって,磁鉄鉱または硫化鉄がリキダス相として晶出する場合が見られ,この現象がメルト相の組成を規定するために硫黄の揮発が促進または抑制している可能性が見いだされた。これは当初の予想を超える成果である。この結果は,予定していた実験条件の範囲で得られたものであり,実験計画については装置の運用を含め,おおむね計画通り進捗しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
29,30年度の進捗状況を踏まえ,基本的に実施計画に沿って計画最終年度としての研究を進めて行く。硫化鉄試料を用いた実験については,最高到達温度の向上を試みる。また,より広い酸素分圧条件との組み合わせた実験を行う。これにより,地球高層大気における鉄および硫黄の酸化挙動,さらに硫化鉄メルトの揮発現象が微小隕石と大気の相互作用に果たす役割を検討する。その結果を,隕石試料を用いた実験に適用し,惑星物質が超高層大気に与える影響について検討する。その結果と,天然の溶融微小隕石の形状,組織,産状との比較を試みる。 また,結晶学的に極めて興味深い,急冷に伴う成長組織が,磁鉄鉱のみならず硫化鉄結晶にも見いだされているため,その形成条件,形成過程を解明するための実験を行い,実験生成物について詳細な分析,解析を試みる。結晶学的解析については,微小試料の処理および観察,解析について連携研究者の協力を仰ぎつつ進めて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度は,主要装置であるケラマックス縦型管状炉の維持には予想ほど消耗品を必要としなかった。試料についても手持ちのものを主に使ったため,追加購入が後ろ倒しとなっている。ただし,主要な解析装置について,本研究課題を遂行するための維持費が必要となるなど,本年度の予算執行額としてはほぼ30年度交付額となったため,次年度使用額は29年度からの繰越額とほぼ同額となっている。次年度は計画最終年度であり,主要実験装置の性能限界に近い条件での実験を行う予定であるため,消耗品の交換頻度が高くなると考えられる。このため,29年度からの繰越額を含めて次年度使用額を執行する予定である。
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