研究課題/領域番号 |
17K05713
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
松影 香子 帝京科学大学, 総合教育センター, 准教授 (80343078)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高温高圧実験 / 水 / 鉄チタン水酸化物 / 地球内部 / 海洋プレート / 高圧含水相 / 沈み込み帯 |
研究実績の概要 |
本研究では、海洋地殻の主な構成物である玄武岩中の主要鉱物と、高圧下で共存する新しい含水相「鉄チタン水酸化物」(例えば、Matsukage et al. 2017)の相関系、熱力学的安定領域を明らかにするのを目的としている。上部マントル下部からマントル遷移層に至る範囲は、海洋地殻にとって効果的に水を地球深部に運ぶ相が欠落している領域である。本研究の今までの成果としてこの鉄チタン酸化物が地球の深さ300~600kmで安定に存在する事が明らかになった。そして、この領域での主要な水成分の運び手及びリザバーであることが示されるとともに地球内部の水分布のシナリオに大きな影響をあたえると考えられる。 初年度(2017年度)は新しい実験室の立ち上げを中心に行った。本研究は予算規模の小さい基盤Cでの新規実験室の立ち上げも含めたプロジェクトとして設定したため、最大で100万円程度の装置を組み合わせて行うことが出来る実験準備および各種分析の前処理は自前の実験室でおこない、高額の装置が必要な加圧実験や実験回収試料の分析は愛媛大学および東京工業大学の装置をお借りして研究を行っている。 2年目となる2018年度は、実際の地球を構成する天然含水玄武岩の系で実験を行い、鉄チタン水酸化物の安定な温度圧力範囲をくまなく実験的に調べた。その結果、圧力およそ9~17 GPa、温度1100℃の範囲で安定であることがわかり、沈み込む海洋地殻にとって効果的に水を地球深部に運ぶ相が欠落している圧力領域をすべてカバーしていることが明らかになった。17~22GPa付近の鉄チタン水酸化物が高圧分解するときの相関係、さらに高圧の含水相と鉄チタン水酸化物の共存関係に関する研究結果は2018年度に論文として公表された(Liu et al. 2018)。9~17GPaの結果に関しては現在国際誌に投稿するための論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は現在所属している帝京科学大学へ移動し何もないところから研究をスタートした。本科研費の支援のおかげで最低限の研究環境が整い実験準備や分析の前処理に関しては問題なく行えるようになった。本学は小さな私立大学であり研究設備や環境に関しては決して恵まれているとは言えないが、基盤Cでは購入できない大型で高額の分析装置・研究装置は使い慣れた他大学や共同利用施設のものを共同研究という形でお借りしつつ、実験準備、実験後の回収試料の分析準備を本学の実験室で行えるように整備を行った。 昨年度の2018年度は、天然玄武岩-H2Oの系での実験を中心に行った。初年度同様に高温高圧発生実験やマイクロフォーカス粉末X線回折分析に関しては、愛媛大学へ共同利用申請を行ったうえで愛媛大地球深部ダイナミクス研究センターのものをお借りし、化学分析に関しては、東京工業大学の装置をお借りした。良い結果が得られ論文作成中である。 単相での相関系や結晶構造に関する研究に関しては、鉄チタン水酸化物の精密な安定領域を決定して相平衡図を完成させるには、高温高圧下の状態において放射光X線で結晶構造データを直接収集する必要である。そのため、つくばの高エネルギー加速器機構で放射光利用のためのG型の共同利用研究の申請を行い2年計画で採択された。しかし、採択件数に対してビームタイムが限られていたという理由で2018年度は本研究のために実際のビームタイムを割り当ててもらうことが出来なかった。2019年度も採択されていることからビームタイムの申請を出しており、時間が分配されれば目的の実験を遂行したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
天然玄武岩-H2Oの系の実験に関しては、非常に順調に進んでいる。愛媛大の共同利用申請は2019年度も採択されており、昨年度同様に研究をさらに進めるとともに、高圧実験の回収試料の各種分析に力を注ぎたい。また学会発表を行うとともに国際誌への論文作成も進めていく予定である。単相での相関系や結晶構造に関する研究は、放射光とマルチアンビル装置を用いたその場観察実験がどうしても必要である。ビームタイムの割り当てをいただけるように努力するとともに、もしも2018年度と同じ問題が生じた時には、結果の質はかなり落ち解明できない問題も残りはするが、放射光を使わない急冷回収による実験も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度から今年度にかけて692784円という高額の繰り越しを行った。昨年度の終わりごろに、本研究で用いていたカーボンコーターが故障で使えなくなり、さらに冷却水循環ユニットを用いないと実験時の加熱がうまくいかないことが判明した。いずれも新規購入するためには2018年度の残高および2019年度の予算を超えた金額が必要であった。そのため、2018年度の予算を一部次年度に繰り越して本年度の物品費として合わせて必要な物品を購入することとした。
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