研究課題
X線自由電子レーザーの登場により、第三世代放射光と同等の高品質なX線回折データを数フェムト秒という極めて短い時間で取得することが可能になった。その結果これまで観察が困難だった、衝撃圧縮された物質内部で極短時間に生じる圧縮から破壊へといたるまでの現象を、時間を追って詳細に観察することが可能になりつつあり、研究代表者はこれまでX線自由電子レーザー施設SACLAにおいて、高強度レーザーを用いたポンププローブ測定の実験基盤整備に携わりつつ、利用研究を進めている。平成30年度は、理化学研究所放射光科学研究センターならびに高輝度光科学研究センターが主体となって行ったポンププローブ実験用真空ターゲットチャンバーの新造にコミッショニングメンバーとして参画し、大阪大学レーザー科学研究所によって高エネルギー化、ロングパルス化が行われた高強度レーザーを試用しながら、立ち上げ実験を行った。立ち上げ実験としては、これまで実施実績のある多結晶コランダムを用い、高エネルギー化されたポンプレーザーの利点を生かし、これまでの実験で発生させられなかった高圧力までの衝撃圧縮実験を行い、高圧相転移の探索を行った。その結果ピーク圧力が400万気圧程度と考えられる強圧縮下で、多結晶コランダムの回折X線パターンに高圧相転移を示唆する顕著な変化が観察され、さらに衝撃波の通過後減圧過程では、出発物質である低圧相のものへと再び変化する様子も観察された。また多結晶コランダムに加え、酸化マグネシウムを出発物質とした実験にも着手し、より高い圧力領域で起こることが理論計算および超高強度レーザーを用いた先行研究で知られている、極超高圧下での構造変化観察を試みた。その結果、基本ユゴニオ上で600万気圧程度の高圧力下で起こることが知られる、酸化マグネシウムの融解を示唆する散乱データの取得に成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度中までに、当初目標にしたってコランダム多結晶体を用いた標準データの収集を終えていたが、平成30年度ではポンプレーザーが高強度化、ロングパルス化されたのみでなく、二次元X線検出器を含むポンププローブ実験用真空ターゲットチャンバーが新造されるなど実験基盤の高度化が行われた。そのため再びコランダム多結晶体を用いた標準データを取得し高度化後の実験システムのコミッショニングを行い、これまでと同等以上の実験データが得られることを確認した。ポンプ用レーザーが高エネルギー化された恩恵を受け、これまでよりはるかに高圧力での実験を行うことが可能となり、当初予定していた温度・圧力範囲を大きく上回る極限環境データを取得することが可能になった。多結晶コランダムに加え多結晶および単結晶の酸化マグネシウムを出発物質とした超高圧実験に着手し、最高600万気圧、13000 K程度までの幅広い温度圧力条件で超高速時分割X線回折測定を行い、融解および高圧相転移の探査を行った。
多結晶コランダムに加え酸化マグネシウム試料の測定を開始し、600万気圧程度までの圧力範囲で予察的なデータを取得でき、さらに高強度化されたレーザーを用いた衝撃圧縮系および、二次元集光されたXFEL光、大面積二次元X線検出器からなる測定システムの有用性が確認出来た。しかしながらこれまでになく強圧縮された条件で有意義なデータを取得するには、多結晶出発物質の結晶粒調整が必要であることが明らかになった。今後は試料を多結晶のコランダムと酸化マグネシウムの二種に絞り、衝撃圧縮下での高圧相転移の明瞭な観察を目指す。一方、多結晶コランダムで取得済みの標準データの解析を進め衝撃圧縮された物質内部での圧縮過程、応力状態およびその緩和過程を明らかにする。
2017年度に作成した実験試料用の残数があったため新規作成を行わなかった分があり、次年度使用額が生じた。今年度前半には昨年度使用し尽くした試料分の作成が必要になるため、それに使用する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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