研究実績の概要 |
沈み込むプレートの構造や変動過程は、これまで調査船による海底音響測深を用いた海底地形観測(e.g. Fujiwara et al., 2011)や、地震波による海底下の構造探査(e.g. Kodaira et al., 2014)により議論されてきた。また、沈み込むプレート自身に引っ張られて発生する正断層群による地形であり、海溝海側斜面に特徴的な構造であるホルストアンドグラーベン構造から海水が地下に浸透し、沈み込むプレートの性質を変えてしまっている可能性を示す観測事実も示された(Fujie et al. 2018)。一方で、沈み込むプレート自身の構造や構成岩石が分かっておらず、プチスポット火山の発見(Hirano et al., 2006)も含め、沈み込むプレートそのものの概念を変わる可能性があり、本研究課題はその岩石そのものを採取し、沈み込むプレートの組成改変や構成岩石の情報を確立する目的がある。
8月に行った東北海洋生態系調査研究船「新青丸」KS-18-9航海では、プチスポット火山の中でも特異な岩石種、化学組成(低Si、高Na、高CO2など)を示す火山噴出物の岩石試料採取を集中的に行った。これら構成鉱物や斑晶鉱物量の解析から、マグマが上昇する間の交代作用(リソスフェアとの化学組成の同化)が少なく、マグマ源のアセノスフェアの物質そのものに近い成分である事が確認されている(Pilet et al., 2016; Sato et al., 2018)。溶岩は海水起源の鉄マンガンクラストを被覆しておらず、噴出が極めて若いと判断できる。ドイツ・バイエルン地球科学研究所、シンガポール・南洋理工大学との共同研究では、アルカリ元素、RbやThなどの液相濃集元素、および炭素含有量が著しく高く、各溶岩組成は均質ではなくバリエーションが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査航海を施行し、目的の海底岩石を得ることができた、研究成果は次ぎに示すとおり、おおむね順調に振興している。既述の新たに確認された化学組成のプチスポット火山に関する学術論文がInternational Geological Reviewに掲載された(Sato, Hirano, et al., 2018)。また、沈み込むプレートの構成岩石としてプチスポット火山を被覆する鉄マンガンクラストの詳細な化学組成が判明し、水深5000メートルを超える深海底特有の希土類元素組成がChemical Geologyから報告された(Azami, Hirano, et al., 2018)。これら溶岩の、水、二酸化炭素、ハロゲン元素の各揮発成分組成についての報告をAmerican Geophysical Union 2018 Fall Meetingにおいて2件(Hirano et al., 2018; Katsuragi, Hirano et al., 2018)、Japan Geoscience Union 2018 Meetingにおいて1件(Katsuragi, Hirano et al., 2018)それぞれ発表した。更に、11月に行われた国立科学博物館国際シンポジウム「Submarine Volcanoes: Windows into Earth's Dynamic Interior」では、世界に分布する様々な海底火山のひとつとしてプチスポット火山に関する招待講演を行った(Hirano, 2018, “Submarine Petit-Spot Volcanoes Induced by the Plate Flexure Prior to Subduction”)。
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