研究課題/領域番号 |
17K05720
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研究機関 | 日本経済大学 |
研究代表者 |
丸山 誠史 日本経済大学, 経営学部(渋谷キャンパス), 研究員 (10444647)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テフラ / 火山ガラス / LA-ICP-MS / 第四紀 / 水月湖 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、水月湖コア試料に含まれる、目視で確認可能なテフラ(火山砕屑物)に含まれる火山ガラスの主要・微量元素同時分析を、レーザー掘削式ICP-MS(LA-ICP-MS)法を用いて実施した。現在保有する水月湖コア試料のうち、試料量が非常に少ないため試料作成に注意を要するもの3試料を除く25試料の測定は完了し、各試料の多元素濃度パターンは相互に比較可能な形で取得済みである。 また水月湖コア試料と対比される、他地域で採取されたテフラ試料の測定を水月湖コア試料の次に測定を開始した。現在までに三瓶山を給源とすると思われる試料の一部と、九州の火山が給源とされる試料など、合計8種に関して測定が行われた。水月湖コア試料に含まれるガラス粒子のサイズおよび形状から見て、試料作成や測定により繊細さが求められるであろう三瓶山および大山を給源とするテフラ試料に関しても、現在入手可能なもの9種について樹脂固め済みで、順次研磨など仕上げ作業を行っている。 水月湖コア試料の中には、三瓶山および大山が給源と思われる試料とは全く異なり、東北日本の火山を給源とするものに似通ったパターンを持つ試料が見出された。この事は、西南日本のみに限定されない、広範な地域由来のテフラも比較対象とする必要がある事を意味する。これに関しては、以前から進められていた首都大学東京都市環境学部・鈴木毅彦教授との共同研究を通して、東北テフラ試料13種の測定を実施、より確実な識別対比のための情報を取得した。 さらに、中国および九州地方を給源地域とする、一部の水月湖コア試料から得られた微量元素組成が、Yが少なくSr/Y比が大きい、いわゆる「アダカイト質」と表現される場合がある事に関連し、多元素濃度パターンの比較検討のために、アダカイトの名の由来であるアダック島で採取されたテフラ試料合計8種に関して、樹脂固め試料を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中核である水月湖コア試料に関しては、試料作成に慎重を要する3試料を除く、現在入手可能な全ての試料の測定が一通り終了している。水月湖コア試料の測定と結果の処理および相互比較の過程で見えてきた課題の一つとして、西南日本のみならず東北日本の火山に給源を持つテフラ試料の情報も増やすというものがあるが、これに関しては複数の東北テフラ試料を測定する機会を得る事ができた。また水月湖コア試料と対比されるテフラ試料(現状で入手可能なもの)の樹脂固めは一通り終了しており、研磨および実際の測定に関しても順次進行中である。 また西南日本の試料(中国地方と九州の一部)でしばしば言及される特徴的な微量元素組成に関連する物質として、アダック島のテフラ試料の測定準備も進行中である。これらは水月湖コア試料自体からは外れるものの、火山ガラスの化学的特性に基づくテフラ分類に貢献し得るものであり、本課題における化学的テフラ分類の指標の一つとなり得るものである。 一方、実現すべき課題の一つである「元素濃度パターンの形状自体による比較」に関しては、パターン認識および形状比較のための手法開発が様々な分野で重要性が高まっているものの、現状は研究者各々が工夫しつつ試行錯誤している段階という事で、本課題でも未だ具体的には進められていないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、水月湖コア試料と対比される各テフラ、特に三瓶山および大山を給源火山とするテフラ試料の測定を中心に進める。またアダック島のテフラ試料に関しても試料研磨および測定を進め、化学組成に基づくテフラ分類の指標となり得るか検討する。 これまで測定されていない、残り3種の水月湖コア試料の作成および測定も試みる。また水月湖コア試料と対比されるテフラに関しては、採掘地が地理的に水月湖に近く、これまで様々な研究が行われている重要コア試料である琵琶湖コア試料に含まれる各テフラ層との対比も、具体的に検討しつつ進める。 本課題とは別に行われてきた、火山ガラス中に含まれる微結晶(microcryst)の研究も、本課題に関連するものとして、並行して進める。三瓶浮布など比較的若い年代の三瓶山起源のテフラに含まれる火山ガラスは、クロムなど特定元素の測定値が大きくばらつく傾向があり、クロムスピネルなど含クロム鉱物のmicrocrystがガラス中に存在する可能性がある。水月湖コア試料に含まれるmicrocrystの存在確認と識別には、島根大学総合科学研究支援センターのX線回折(XRD)分析装置(RINT RAPID)を用いた測定を実施、解析の予定である。特定元素を含むmicrocrystは、テフラ生成過程における物理化学的プロセスをより精密に解読するために有益であり、その存在を具体的に明らかにする事は、火山学的・地球化学的な意味で意義がある。 元素濃度パターンの形状による比較の試みも、各分野で行われているさまざまな試みを参考にしつつ、場合によっては他分野の研究者とも連携しつつ、本課題に最も適した方法を模索する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では、物品(消耗品)の中でも特に、高純度ガス類(液化アルゴン、ヘリウム)が重要かつ必須である。しかし高純度ガスの購入および納入は、通常の消耗品よりも購入および納品の手順や各機関で決められたルールなどの点で、研究代表者のように、これらを納入すべき機関に所属していない者が購入するのには、やはり高いハードルが存在する事が判明した。(この点は、研究協力者を研究分担者にすればよりスムーズに進むとも思われるが、種々の理由で控えている状況である) そのため、平成29年度に使用した物品費に関しては、測定システムおよび測定環境整備に必要な物品として、測定機器のパーツなど、必要最小限の物品購入に留まる事となった。この点が、使用額に差が発生した最大の理由である。 一方で、平成29年度は本課題の中核である水月湖コア試料の測定に集中する方針としていたので、測定システムのある東京と京都の間の往復のための旅費が、より大きな比率を占める事となった。平成30年度も同様に、測定(および研究打合せ)のために、旅費により大きな比率を割り振る計画である。また平成29年度末から30年度初頭にかけて行われた測定システム(主にレーザー装置)の改良、更新に伴い、システム保守管理のために要する物品購入は、最小限度に留まっていた29年度よりも大きな比率となるものと考えている。
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