研究課題
○年代測定: 太平洋で採取されたマンガンクラストの一部を1mm厚にスライスし、加速器質量分析の手法を用いて10Be濃度の深度分布測定を行った。10Beの深度分布と10Beの半減期より本研究で用いるマンガンクラストの成長速度が明らかになった。○質量数190付近の白金属元素の分析: 10Beの分析に用いた試料の一部から、ICP-MSを用いたIr, Pt, Auの分析において妨害分子イオンを形成するHfをLnレジンを用いて除去した。Ir, Pt, Auの蓄積量経時変化をICP-MSを用いて分析した。しかしながら、これらの元素濃度には、流入のイベントを示す有意な経時変化は見られなかった。○60Feの分析: 10Beの分析に用いた試料の一部より、イオン交換法によりFeを精製し、オーストラリア国立大学HIAF施設にて60Feの分析を行った。○244Puの加速器質量分析の開発: 244Puの標準試料をオーストラリア原子力研究所ANSTOの小型の静電加速器VEGAを用いて、244Puの加速器質量分析の開発を実施した。これまで、世界各地で244Puの加速器質量分析が試みられてきたが、ANSTOでの加速器質量分析は他施設よりも1-2桁優れた測定感度を出すことができた。○244Puの化学処理法の検討: マンガンクラスト試料の一部を用いて、トレーサー実験により、Puの精製方法の検討を行った。マンガンクラストを酸に溶解し、NH4Iを用いてPuを3価に還元し、NH4Fを添加することにより、Puをフッ化物として共沈させ、得られた沈殿物を、イオン交換によりPuをさらに精製することにより、多量の試料溶液からPuを高収率で回収できた。
2: おおむね順調に進展している
2017年度は、①マンガンクラストの成長速度の測定、②高時間分解能な60Feの分析、③244Pu加速器質量分析の開発、④Pu化学処理法の検討、の4項目を実施する予定で、全て予定通りに進捗した。また、2018年度に計画していた質量数190付近の白金属元素の分析も前倒しで実施し、順調に進捗中である。
60Feを分析によりマンガンクラストからは過去1000万年の間に2回の60Fe流入イベントが検出されている。マンガンクラスト試料の表面は過去に行われた大気圏内核実験由来のPuで汚染している。表面5mm、1回目の流入時期、2回目の流入時期の3つに試料をスライスし、それぞれより239Pu, 240Pu, 241Pu, 242Pu, 244Puの分析を行う。表面の試料の244Pu/239Pu比より核実験由来の244Pu量を明らかにし、1回目および2回目の流入時期に検出される244Puから核実験起源の寄与を差し引いて解析を進める。一方で、以前の当研究グループや世界各地の研究者により行われている核反応研究を最もよく再現する核反応モデルを用いた理論計算を行い、爆発的環境下における60Feや244Puの生成量のシミュレーションを実施する。マンガンクラストに検出された60Feと244Puの量を、本研究でのシミュレーション結果や他の研究者による文献値と比較し、起源の推定に迫る。
加速器質量分析が次年度に延期になったため、旅費分を繰り越すことになった。
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