研究課題/領域番号 |
17K05733
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大熊 康典 日本大学, 生産工学部, 教授 (80287581)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 火花放電 / レーザープラズマ |
研究実績の概要 |
本研究は、レンズで集光したレーザーを照射して気体をプラズマ化させ、これを放電路の中継点とすることで、パッシェン則によって放電電極間距離の決まる従来の火花放電よりも放電電極間距離の長い火花放電を発生させる手法を確立し、火花点火ガソリンエンジンにおいて希薄予混合気燃焼を採用するための体積的な広域火花点火を実現させる新点火方法の提案に寄与することを目的としている。そのために、本研究は、(1)実験装置系及び計測系の構築、(2)放電装置の製作、(3) 放電電極間距離の延長特性の測定、(4)放電電極間における放電経路の制御方法の検討及び提案、の4つの主要なタスクから構成される。 本年度は、実験の準備期間として、主要タスクの(1)と(2)に重点を置き、本研究の代表者が所有する既存の静電気放電装置を使用して、本研究を遂行するための放電装置を製作する際に必要となる基礎データを収集するための試験的な実験を行った。 前半は高圧電源系、制御系、光学系、計測系(電圧及び電流波形の計測)を構築した。高圧電源系では、高出力イグニッション回路の設計・試作を行った。また、制御系では、ディレイパルスジェネレータを用いて、レーザー照射のタイミングや電極間電圧印加開始時間等の制御手法を確立した。 後半は放電電極間の中央にレーザーによるプラズマを生成して火花放電を発生させた。実験結果から、通常の火花放電に比べて、放電電圧しきい値の低下や放電電極間距離の延伸が確認された。また、レーザープラズマの衝撃波方向依存性を調べるために、レーザー入射方向と放電電圧印加方向との角度を変えたところ、放電確率や放電電極間距離にレーザー入射角度依存性が認められた。また、これらの予備実験で得られた基礎データをもとに、主要タスクの(3)をより精度良く詳細に遂行するための放電装置を設計し、次年度以降の本格的な実験に向けた準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の代表者が静電気放電現象の研究で稼働させている静電気放電実験装置を改造した放電装置を用いて、長距離放電実験装置系(高圧電源系、制御系、光学系、計測系)を構築し,レーザープラズマを放電路の中継点とすることで、通常の火花放電に比べて(a)どの程度放電しきい値が低下するのか,(b)放電電極間距離は通常の火花放電に比べてどの程度延伸できるのか,を切り口に基礎データ群を測定し、実際に放電電圧しきい値の低下や放電電極間距離の延伸を確認することができた。また、予備実験の段階ではあるが、レーザー入射方向と放電電圧印加方向との角度を変えた実験を行い、放電確率や放電電極間距離にレーザー入射角度依存性を確認することができた。 一方、本年度中にに実施を予定していた、放電電極形状とレーザー出力値、パルス状電圧印加とレーザー照射の時間差をパラメータとする実験は、放電装置や制御系、光学系に改良を加える必要が出てきたため、試験的な実験から得られた基礎データをもとに、より精度良く詳細に研究を遂行するための放電装置の設計や、制御系および光学系の改良に必要な部品の選定を行った。 研究計画の内容を全て達成できてはいないものの、長距離放電実験装置系を構築して実験手法を確立し、本研究の目的である長距離火花放電を確認できたことにより、次年度以降の本格的な実験に向けた準備を整えることができたことから、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の予備実験を踏まえ、より精度良く詳細なデータを得るために光学系の改良と新たな火花放電装置の製作を行い、長距離放電の特性をより詳細に把握する。 ハイパワー用偏向ビームスプリッターとエアギャップタイプ水晶波長板を用意して、レーザーエネルギーを高精度で調整できるように光学系を改良し、レーザーエネルギーを可変とする。また、レーザープラズマの衝撃波方向と放電方向との関係を明らかにするために、回転ステージ上に放電電極を設置した火花放電装置を製作する。レーザー入射方向と放電電圧印加方向との角度を変えながら,放電電極形状,放電電極間距離,印加電圧値,レーザー出力値,パルス状電圧印加とレーザー照射の時間差をパラメータとして, 放電確率の放電電極間距離依存性を把握し、放電に必要なレーザーエネルギーや放電電圧しきい値を低減しながら放電電極間距離を延伸させる手法を検討する。 さらに、放電電極間の任意の位置にレーザーによるプラズマを生成して火花放電実験を行う。レーザー照射点の位置変化や多点化に伴う,(a)放電電圧しきい値の変化,(b)放電電極間距離の延伸の変化,(c)放電経路の変化,を明らかにする。得られた研究成果は,国内の学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実験の準備期間として、実験装置系の構築を研究実施の主体としている。本研究遂行のための予備実験を行った結果、研究計画当初の実験装置系において、特に放電装置および周辺装置である制御系と光学系について改良が必要であることが分かったために見直しを行った。そのため、実験装置系の構築に使用する予定であった助成金を次年度に使用することとなった。 しかし、より精度良く詳細に研究を遂行するための放電装置の設計や、制御系および光学系の改良に必要な部品の選定は終えているので、本年度使用予定であった助成金で次年度早々に新しい放電装置の製作と制御系および光学系の新たな装置・部品の用意に取りかかり、本格的な実験を開始する。また、実験内容のステップアップを図る関連部品を用意するための消耗品費や、得られた研究成果を国内の学会等で発表する際の旅費等については、当初の計画に沿って使用する。
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