研究課題/領域番号 |
17K05734
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
三浦 英昭 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (40280599)
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研究分担者 |
荒木 圭典 岡山理科大学, 工学部, 教授 (90299181)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MHD乱流 / 不安定性 / 微視的効果 / LES / SGSモデル |
研究実績の概要 |
超大レイノルズ数のプラズマ乱流の研究のため、巨視的なスケールについては電磁流体力学(MHD)方程式を解きつつ、ミクロスケールについては乱流の運動論的性質を定性的に組み込んだ現象論的モデル(サブグリッドスケールモデル、SGSモデル)で代替する、ラージ・エディ・シミュレーション(LES)研究を進めた。 ミクロスケールの効果として、磁場の方程式にイオン・電子の分離効果を表すHall 項を取り入れた、Hal MHD方程式による乱流のLESのためのSGSモデルの開発を行い、このモデルを用いた数値シミュレーションを実施した。Hall MHD乱流の大規模直接数値シミュレーション(DNS)と、SGSモデルを組み込んだLESの比較から、研究課題代表者らがこれまで開発してきたSGSモデルを改良した新しいSGSモデルが、Hall MHD乱流のエネルギースペクトルなどをよく再現することを示した。この成果は国際会議で発表した。また、査読付き論文誌に投稿中である。さらに大規模なHall MHD乱流のDNSも実施中であり、論文投稿準備中である。 さらに、LESの考え方を拡張し、乱れた磁気面による輸送効果を磁気拡散係数モデルとしてモデル化し、このモデルを取り入れたシミュレーションを実施した。先行研究において、磁気拡散勾配が存在するような状況下での交換型不安定性がテアリング不安定性に遷移する可能性が理論的に提唱されていた。我々のシミュレーションにより、この理論モデル(Current Interchange Tearing Mode, CITM)の発生が起こりえることを、数値的に示すことに成功した。この成果は、国際会議で発表され、また、査読付き論文誌に発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新しいSGSモデルの開発は当初予定した以上に順調に進捗した。我々の新しいSGSモデルを用いたLESは、DNSによる磁気エネルギースペクトルを良く再現することがわかった。古典的なSmagorinsky型とよばれるこのSGSモデルにはいくつかの任意定数が存在するが、広範なパラメータサーベイにより、適切なパラメータの絞り込みを行った。このように、このHall MHD用のSGSモデルを組み込んだLESは、実用段階に到達しつつある。平成30年度中にはは、このLES手法を用いて、新たに論文を投稿することが可能となる見込みである。ただし、SGSのパラメータサーベイを含む論文については査読中であり、掲載が決定していないため、この点については進捗評価を留保する必要がある。 また、LES手法の応用であるCITMの数値シミュレーションについては、研究着手から当初想定していた研究期間の半分程度で論文の出版に至ることができた。この点で、当初の計画よりも十分に早い進捗を見せている。この研究は、磁場閉じ込め核融合の重要問題であるエッジプラズマの不安定性現象、特に電流の間欠的な放出についての理解を深めるものであり、この分野に重要な貢献ができたものと考えられる。 これらを考慮し、現在までの進捗状況は、当初計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、SGSモデルを用いた大規模Hall MHD不安定性・乱流LESと、SGSモデルを用いないDNSの両者を実施し、LESとDNSの対比によるモデルの正当性の検証、LESの微視的効果を伴うプラズマ乱流シミュレーションに対する有用性の実証を進める。また、衝突頻度の低いプラズマの乱流では、磁力線による異方性が本質的な役割を果たすことから、背景磁場が印加されたHall MHD乱流のDNSおよびLESを実施するとともに、異方性を考慮したSGSモデルを開発する。この研究により、本研究内容の、核融合プラズマなどへの応用性を高める。 第二に、微視的効果の研究を、Hall項に関する研究のみにとどまらず、流体の圧縮性やジャイロ粘性項も追加したBraginskii型の拡張MHD方程式(これは本課題申請時に記載した、Ramosモデルのサブセットに近い形をしている)を用いたDNSによる研究に進める。また、この領域での研究の進展を考慮し、Ramosモデルに代えて、粒子(Particle-In-Cell, PIC)シミュレーションとの比較を通じて、運動論的効果をモデル化することも検討する。 第三に、平成29年度のRayleigh-Taylor(RT)型不安定性(この場合は、CITM)についての研究に加え、Kelvin-Helmholtz(KH)型不安定性の研究を加える。上記のCITMはRT型に分類される不安定性であり、今後はこのCITMに対する微視的効果を中心に研究を進める。また、RT型不安定性にジャイロ粘性が加わった場合には、KH型の二次不安定性が発生し得ることが課題代表者らによって示されていることから、KH型についてはこのような二次不安定性の存在も念頭に置きつつ研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度当初は、平成29年10月に開催のアメリカ物理学会プラズマ分科年会(APS-DPP)において研究成果発表を予定していた。しかし、職場の業務スケジュールとの兼ね合いでこの出張が不可能となり、出張経費が使われずに残った。(ただし、この研究成果の一部は、共同研究者が同学会で発表したことから、目的の一部は達成された。)さらに、平成29年末に投稿した論文が、掲載決定には至らなかった。このため、論文のオープンアクセス化費用として計上した経費が使われずに残った。この2点が、次年度使用額が生じた主な理由である。 上記の経費のうち、海外出張旅費については、平成30年6月に開催される国際会議への参加、成果発表に充当する計画である。また、論文に関する費用は、平成30年度の論文出版費用として使用する計画である。
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