研究課題/領域番号 |
17K05735
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
岸本 牧 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 量子生命科学研究部, 上席研究員(定常) (40360432)
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研究分担者 |
難波 愼一 広島大学, 工学研究科, 教授 (00343294)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水の窓軟X線 / レーザープラズマ / 窒素ガス / 金プラズマ / 軟X線増強 |
研究実績の概要 |
窒素ガス雰囲気中での金プラズマからの水の窓軟X線増強現象メカニズムを解明するためには、窒素ガスとレーザー生成金プラズマとの相互作用を様々なレーザー照射条件、ターゲット条件のもとで詳細に計測し、それらの実験結果から水の窓軟X線増強メカニズムについての理論構築を行う必要がある。 今年度は、まずレーザープラズマ生成用パルスレーザーシステムとしてピコ秒YAGレーザーとナノ秒YAGレーザーの2種類のパルスレーザー装置の設置・調整とレーザーパルス伝送光学系及び集光光学系の再設計により、ターゲットへのレーザー照射条件の改善と安定化を行った。 さらにターゲット照射チャンバーの改造や、レーザープラズマの空間分解スペクトル計測用トロイダルミラー集光斜入射分光器システムと軟X線ピンホールカメラの改良などを行い、レーザー生成プラズマから生じる軟X線のスペクトルに関する空間情報を高感度・高精度で測定できるようになった。 そしてこれらを用いて、様々なレーザー照射条件下でレーザー生成プラズマの状態(プラズマの空間的広がりや様々なプラズマ位置での軟X線スペクトルの違いなど)を詳細に観察し、軟X線増強現象を解明するための基礎データの収集を行った。 こうして得られた実験データをもとに水の窓軟X線増強メカニズムに関する理論の構築とシミュレーションコードの作成、及びシミュレーション結果と実験結果の比較検討を行い、軟X線増強現象を説明可能な物理モデルの提案を行うことができた。 以上の成果をもとに窒素雰囲気下での金プラズマからの水の窓軟X線の増強とそのメカニズムに関する論文投稿を行い、論文が雑誌Optics Lettersに掲載された(Opt.Lett. Vol.14, No.6, pp.1439-1442(2019))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度目標としていたパルスレーザーシステムとレーザー照射光学系及びレーザープラズマ軟X線計測装置の改良と再調整、さらに軟X線増強メカニズムの解明に必要となるレーザープラズマの詳細計測実験の実施と増強メカニズに関する理論提案に関して、下記のような成果を得ることが出来、ほぼ当初目標をすべてクリア出来た。 (1)ナノ秒及びピコ秒パルスレザーの照射光学系や軟X線計測系の再設計と再調整によってレーザープラズマ生成条件と計測条件が安定化し、水の窓軟X線増強メカニズム解明の基礎となるレーザープラズマ状態の詳細な計測を可能にすることが出来た。 (2)改良したレーザープラズマ計測実験装置を用いて様々なレーザー照射条件下でレーザープラズマの軟X線発生状態の計測を行い、理論構築に必要となる基礎データ収集を実施した。 (3)実験で得られたデータをもとに窒素雰囲気下での金プラズマからの水の窓軟X線増強のメカニズムに関する物理理論を提案し、さらにその理論をもとにシミュレーションコードの作成、及び実験結果とシミュレーション結果の比較検討を行う事が出来た。 (4)以上の成果をもとに論文投稿を行い、Optics Lettersに論文を掲載することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、①水の窓軟X線発生の最適化と、②他波長(例えばEUVリソグラフィー用の6nmや13nmなど)への応用展開の可能性を探ること、を目標として以下のことを実施していく。 (1)ガスやターゲット材料の種類を色々変え、さらにそれらを様々に組み合わせて、レーザープラズマからの軟X線発生状態の詳細な計測を実施して、レーザープラズマと雰囲気ガスの相互作用に関する基礎データを収集する。 (2)(1)の基礎データをもとにシミュレーションコードのさらなる高度化(多次元モデル化など)を進める。 (3)シミュレーション計算をもとに軟X線増強の最適レーザー照射条件を探り、実証実験を通じて理論の有効性実証と最適照射条件の探索を行う。 (4)雰囲気ガスによる発生軟X線の吸収損失をできるだけ低減するために、ガスセル方式やガスパフ方式などのガス導入方法の開発を行う。 (5)水の窓以外の波長での軟X線増強現象可能性を調べるため、シミュレーション計算や他波長での軟X線増強実験を行い、本手法の産業界(半導体製造など)への展開可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張日数が当初予定より短くなったため。残金は次年度の出張に充てる。
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