研究課題/領域番号 |
17K05743
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小安 喜一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (20508593)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遷移金属 / イリジウム / 磁気ボトル型光電子分光法 / レーザー蒸発法 / MALDI質量分析法 / イオン移動度質量分析法 |
研究実績の概要 |
本研究では,CoクラスターがCO2を解離吸着して活性化するという真空実験で得られた結果と,この結果に基づいて行った液相実験から得られた,CO2との反応によってCOが遊離するという,理想系と実在系の両面から得られた契機を触媒反応へと展開することを目的としている。 平成30年度は,液相中の還元法とは別の手法として,昨年度に引き続きレーザー蒸発法によって得られた金属クラスターを溶液中に取り出すため,クラスターを取り出す溶媒をフラスコ内に低圧雰囲気で共存させてレーザー蒸発法を適用し,生成したクラスターを直接溶液中に取り込むための方法の開発を進め,条件を検討して溶媒中にチオールを共存させてレーザー蒸発を適用した。この改良によって得られたサンプルに対してMALDI質量分析法を適用し,Ag:チオラート錯体の生成が確認できた。 また,遷移金属クラスターの実在系での利用を想定した表面の酸化反応についても検討した。平成30年度には,コバルトと同族であるイリジウムのクラスターの酸化の進行に対して,イオン移動度質量分析法を適用して酸化の進行に伴う幾何構造の変化も調べた。解析から,反応前のイリジウムクラスターは立方体ユニットに基づいて成長することが分かった。これは,コバルトなどの一般的な遷移金属が最密充填の面心立方構造になることと異なる結果であった。また,酸素原子は立方体構造の各頂点にOn topで付加した構造を優先的にとることを明らかにした。 また,負イオンによるCO2活性化について調べるため,Au原子負イオンとの反応を調べた。CO2はAu(CO2)錯体中で物理吸着と化学吸着が共存した状態をとるが,この比率が温度によって変化することが理論計算から予測されている。そこで,実際にAu(CO2)錯体を生成させて光電子スペクトルを測定した。現在は,室温と低温で物理吸着と化学吸着の比率が異なる様子を観測している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,溶液中でのクラスター合成とサイズ分布の測定について,合成条件の最適化を中心に研究を進めた。また,真空実験と理論計算の組み合わせによるクラスター表面の酸化状態,および小分子活性化の検証も進めた。 クラスターの合成においては,化学的な還元法による対アニオンの存在によってクラスターの溶液中での寿命が低下すると考えられる。そのため一般にクラスターの生成後には遠心分離による脱塩処理を適用しているが,嫌気下での処理は簡単ではないため,レーザー蒸発法で金属試料からクラスターを生成し,これを直接取り出す手法を開発しており,AgをターゲットとしてAg:チオラート錯体の合成まで確認できた。この手法が確立すれば,コバルトを始めとする遷移金属のクラスターについても脱塩処理なく対アニオンなしでクラスターが合成可能になり,今後のサイズと触媒活性相関の分析に有用であると考えている。 また,真空中でのクラスター表面の酸化や小分子活性化について調べるため,光電子スペクトル測定やイオン移動度測定と理論計算を組み合わせてイリジウムやアルミニウムクラスター,金原子負イオン,およびこれらの反応中間体の構造を調べた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,金属クラスターは,通常の化学還元法で合成するだけでなく,平成29年度から開発を進めているレーザー蒸発法を用いて脱塩処理することなく対アニオンの影響なしで嫌気下でのクラスター合成法を確立する。また,既に導入している電極を用いたHALDI質量分析法を用いて溶液中で合成したクラスターのサイズ分布の測定を進める。 一方で,化学還元法も併用して遷移金属(コバルト,ニッケルなど)のクラスターを溶液中で合成し,CO2の反応を検証する。サイズ分布については開発中のHALDI質量分析法を用いるほか,通常のMALDI法で酸化された状態のクラスターの生成分布から元のサイズ分布を推定して,反応性との検証を行う。サイズ分布の検証には,X線吸収スペクトルの適用も検討して,大気中で扱いにくい金属のサイズ分布と反応性の相関を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成30年度は財団などからの研究予算も獲得できたため,そちらを優先的に使用して溶液中でのクラスター合成とサイズ分布の測定についての開発を進めるとともに,真空実験と理論計算の組み合わせによるクラスター表面の酸化状態,および小分子活性化を検証したため,次年度使用額が生じた。 (使用計画) 今年度,合成したクラスターとCO2の反応を検証する際の反応機器や消耗品として利用するのに加え,現在開発しているレーザー蒸発法によって生成したクラスターを溶液中に取り出す方法に対しては,他の実験とは別に,独立したパルスレーザーを入手するのが望ましい。財団などの他の予算の都合をつけ,新年度使用額を合わせることによって新たな専用のパルスレーザーの購入に充当する。
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