本研究では,CoクラスターがCO2を解離吸着して活性化するという真空実験で得られた結果と,この結果に基づいて行った液相実験から得られた,CO2との反応によってCOが遊離するという,理想系と実在系の両面から得られた,金属クラスターによる分子の活性化の可能性を触媒反応へと展開することを目的とした。 令和元年度は,コバルトと同族であるイリジウムクラスターにイオン移動度質量分析法と光電子分光法を適用し,理論計算の結果と合わせて5量体から15量体までは立方体に基づいた構造をとることを明らかにした。このような構造は,バルクのイリジウム金属が最密充填構造の六方最密型を取ることと対照的であり,気相イリジウムクラスターには,バルクよりも隣接原子数(配位数)が少ない原子が含まれる可能性が示された。 また実験で見いだされた,クラスター中の低配位数原子は高い反応活性を示す可能性がある。そこで,同様に立方体構造を取り得るルテニウムのクラスターを対象として,これをレーザー蒸発法によって溶液中に取り出すため,保護剤としてアミンを溶解したエチレングリコールをフラスコ内のルテニウム試料下部に導入し,低圧雰囲気下でレーザー蒸発法を適用して,生成したクラスターを直接溶液中に取り込むための方法の開発を進めた。得られたサンプルを透過型電子顕微鏡で観察し,粒径が1.5 nm程度のナノクラスターが得られることがわかった。 一方,負イオンによるCO2活性化について調べるため,Au原子負イオンとの反応を調べた。CO2はAu(CO2)錯体中で,光電子スペクトルを測定して共存する物理吸着と化学吸着の比率の温度依存性を調べた。温度低下によって物理吸着体に対する化学吸着体の比率が増加すること,化学吸着体が0.08 eV安定であることを明らかにした。この結果は,温度変化によってCO2の吸着状態を制御できる可能性を示している。
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